PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

狐と蛇

関連キャラクター:嘉六

ゴミ捨て場に昇る煙
「嘉六さん、何してるんですか」
「ぎゃっ!! ……げぇ、仄」
「げぇってなんですか、人のこと化け物みたいに」
 コンビニエンスストアで適当に買った缶チューハイとツマミを入れたレジ袋を提げて帰路についていた仄はゴミ捨て場でひっくり返っている嘉六を見つけた。
 さあっと血の気が引いて慌てて駆け寄ってみればぐーすかイビキをかいていたので心底安心したのと同時に、心配かけやがってと腹が立った。その為鼻を摘まんで叩き起こしたのが、たった今である
 摘まれた鼻を摩りながら、恨めしげに嘉六は仄を見上げた。
「……どうしたんですか、その酷い顔」
「あ? これか?」
 さっきは影でよく見えなかったが整った顔の左側、主に目の周りが紫色に腫れており、口の端からは流血した後が見える。
 綺麗な顔に何してくれてんだよ。
 仄はチッと舌打ちをした。嘉六には聞こえていなかったようだが。
「いやぁ、賭けで負けてよ。いや? 勝ってたんだけどよ、急に負けが混み出して。で、よーく見てみりゃ相手がイカサマしてたんだよ。だから俺もおんなじことして倍にして返してやったらこうよ」
「怪しい賭けなんかするからですよ」
「おいおい、賭けは悪くねぇだろ。悪いのは楽しい時間に水刺しやがった阿呆だよ」
「その結果がそれでしょ?」
「まぁな」
 悪びれもせずヘラヘラとしている嘉六が仄は理解できなかった。仄ははっきり言って痛いのは嫌である、普通誰でもそうだが。殴られるどころか顎に生えた一本のムダ毛を抜くときの痛みだって嫌だ。
 なのにこの嘉六という男はこれだけ痛い思いをしながら平然と笑ってみせるのだ。
「依頼なんかじゃこれ以上痛いこともあるっての、俺とお前じゃ感じ方が違うんだよ」
 嘉六はローレットに属するイレギュラーズ。たいして仄は商才に全振りした以外は何処にでもいる一般人。その違いがわからない仄ではなかったが、嘉六の口から直接言の葉として飛び出してきたソレは心の深いところにグサリと刺さった。
「……やめて、俺のとこに来ましょうよ。養うくらい訳ないし、そんなに賭けが好きなら痛い思いなんかしなくてもちゃんとしたカジノくらい行かせてあげますよ」
 初恋なんて綺麗な言葉で片付けられる時はとっくに過ぎて、仄が理解できないまま執着と呼べるほどに大きく粘ついた塊になった感情は、すぐ手元に嘉六を置いておきその隣に自分がいたいという中途半端な純情も混じったナニカになった。
「……俺ぁ、誰の所にもいかねぇよ」
 懐から取り出した煙管に嘉六は火を入れた。吐き出した煙が空を登り、消えていった。それが誰にも捕まらない嘉六を表している様で仄はまた小さく舌打ちをした。
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