幕間
ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。
マリエッタの幕間
マリエッタの幕間
関連キャラクター:マリエッタ・エーレイン
- しあわせ作りの練習を
- ●甘い香りはしあわせの香り
カチャカチャと鳴る料理器具に、キッチンに広がるバターの香り。
何度も広げたレシピ本は、ぎゅっと押さえなくてももう自然と開けるくらいに馴染んで。
けれどもマリエッタは真剣な表情で寸分たがわぬ軽量をし、ことに当たった。
「美味しくなりますように」
思い描くのは先日の、ファントムナイトの夜のこと。
お菓子を配るイベントだからと、友人たちと楽しむのだからと、張り切ってお菓子を焼いた。
形は崩れてしまったし、焼いたら割れてしまったりもしたけれど、友人たちはみんなとても喜んでくれた。
たくさんの笑顔を咲かせてくれたのは、友人たちだけではない。「Trick or Treat!」の掛け声をくれる人たちもみんな、「わあ、手作りお菓子? うれしい!」と喜んでくれていた。
誰かを笑顔にする魔法がこの手に宿ったみたいで、不思議と魔女の思考も沸いてこなくて、マリエッタはとても幸せだったのだ。バターやお砂糖の甘い香りが、それを導いてくれる気さえしている。
「ファントムナイトのは少し失敗してしまいましたが、シャイネンナハトに向けて頑張りましょう!」
パウンドケーキと、クッキーはどうだろう?
友人たちそれぞれが好むフルーツを使ったパウンドケーキは砂糖でコーティングして、粉砂糖を仕上げにかけて真っ白な雪をあらわして。別で梱包したクッキーを最後に添えてもらえば、『自分だけの冬の日ケーキ』になるだろう。
クッキーは多く焼いたっていい。きっとみんな、喜んでくれるから。
「きれいに色もつけたいですね」
プレーンな生地に食用色素を使用して、もみの木は緑に、赤い服の人には赤を、ジンジャーマンにはチョコレートとプレーンを……彩りあふれるクッキーを用意したい。焼いてみると色は微妙に変わるから、色の調整はトライ・アンド・エラーだ。マリエッタがコレ! と思える色を出すためにも、何度も焼いてみなくては。
もっと慣れたらアイシングクッキーで友人たちの顔を作ってみるのもいいかもしれない。日々を重ねる度に上達していくマリエッタのお菓子に、友人たちは喜んでくれるだろうか?
「ふふっ」
思わず、笑みがこぼれ落ちてしまう。
(喜んでくれるか、だなんて……そんなの、決まっています)
優しくて明るくて楽しい彼女たちは、絶対に喜んでくれる。だからマリエッタも喜んでもらえるものを用意したい。
友人たちのことを考える、バターとお砂糖の香りに包まれるしあわせなひととき。
この手がしあわせを作ることが出来ることに、マリエッタは知らず幸福を覚えていた。
- 執筆:壱花