幕間
マリエッタの幕間
マリエッタの幕間
関連キャラクター:マリエッタ・エーレイン
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- 親切なマリエッタ。或いは、砂漠の一夜…。
- ●食糧事情
「これは……いったい?」
ある日の砂漠。
とある辺境の小さな集落。狼の獣種たちが作った砂漠の村で、マリエッタは歓待を受けた。
それというのも、マリエッタは集落の成立に一役かった立役者。彼らにとっては恩人で、さらに言うなら里長を務めるライカ・スプローンの姉妹分でもあるからだ。
当然のように下にも置かぬ扱いを受け、果実水と食事が提供されたのである。
マリエッタとしては、慣れぬ砂漠の生活で彼らが不便をしていないか、と気になって様子を見に来ただけのこと。歓迎されるとなると、少々居心地の悪いものも感じているが……さて、それはさておいて。
「あぁ、今朝取れたばかりの蛇の肉だ。少し硬いが、喰いでがあって美味いぞ」
串に刺さった蛇の肉を差し出され、マリエッタは目を丸くした。
蛇の肉……というのはまだいい。ライカたちが食えるというのだから、きっと食用に適した生物なのだろう。
けれど、この色は何だ。
何ゆえ、肉が真っ黒なのだ。
「お肉の色は、元々こういう風なのですか? それと、この妙に鼻を刺激する香りは?」
受け取った肉をまじまじ見ながらマリエッタは問うた。
そんな彼女の様子に思うところがあったのか、あぁ、とライカは表情を少し暗くする。
「やはり出来が悪いのか? 私たちは、肉を生で食べるんだが……この蛇、毒があってな。焼いて、香辛料を振りかけなければ体に障るんだ。栄養もあるし日持ちもするし捕獲も容易だしで、毒さえなければ文句のない食材なんだが」
「毒がある生き物を食材とは……あ、いえ」
思い返せば、毒を持つ生物を食材として加工する例は世界中に多くある。この名も知らぬ毒蛇も、きっとその類なのだ。
あぁ、けれど。
悲しいかな、調理スキルが壊滅的だ。
「お肉ではなく炭になってしまっています。あの、よければお料理を教えましょうか?」
「うぅん。世話になりっぱなしだが……背に腹は代えられないよなぁ」
「えぇ、試行錯誤は必要でしょうが……この状態のお肉を食べ物と認識するのは無理というか」
なんて。
顔を見合わせ、2人は手元の“炭”を見下ろす。
乾いた風が一陣吹いて、炭の欠片が地面に零れた。 - 執筆:病み月
- しあわせ作りの練習を
- ●甘い香りはしあわせの香り
カチャカチャと鳴る料理器具に、キッチンに広がるバターの香り。
何度も広げたレシピ本は、ぎゅっと押さえなくてももう自然と開けるくらいに馴染んで。
けれどもマリエッタは真剣な表情で寸分たがわぬ軽量をし、ことに当たった。
「美味しくなりますように」
思い描くのは先日の、ファントムナイトの夜のこと。
お菓子を配るイベントだからと、友人たちと楽しむのだからと、張り切ってお菓子を焼いた。
形は崩れてしまったし、焼いたら割れてしまったりもしたけれど、友人たちはみんなとても喜んでくれた。
たくさんの笑顔を咲かせてくれたのは、友人たちだけではない。「Trick or Treat!」の掛け声をくれる人たちもみんな、「わあ、手作りお菓子? うれしい!」と喜んでくれていた。
誰かを笑顔にする魔法がこの手に宿ったみたいで、不思議と魔女の思考も沸いてこなくて、マリエッタはとても幸せだったのだ。バターやお砂糖の甘い香りが、それを導いてくれる気さえしている。
「ファントムナイトのは少し失敗してしまいましたが、シャイネンナハトに向けて頑張りましょう!」
パウンドケーキと、クッキーはどうだろう?
友人たちそれぞれが好むフルーツを使ったパウンドケーキは砂糖でコーティングして、粉砂糖を仕上げにかけて真っ白な雪をあらわして。別で梱包したクッキーを最後に添えてもらえば、『自分だけの冬の日ケーキ』になるだろう。
クッキーは多く焼いたっていい。きっとみんな、喜んでくれるから。
「きれいに色もつけたいですね」
プレーンな生地に食用色素を使用して、もみの木は緑に、赤い服の人には赤を、ジンジャーマンにはチョコレートとプレーンを……彩りあふれるクッキーを用意したい。焼いてみると色は微妙に変わるから、色の調整はトライ・アンド・エラーだ。マリエッタがコレ! と思える色を出すためにも、何度も焼いてみなくては。
もっと慣れたらアイシングクッキーで友人たちの顔を作ってみるのもいいかもしれない。日々を重ねる度に上達していくマリエッタのお菓子に、友人たちは喜んでくれるだろうか?
「ふふっ」
思わず、笑みがこぼれ落ちてしまう。
(喜んでくれるか、だなんて……そんなの、決まっています)
優しくて明るくて楽しい彼女たちは、絶対に喜んでくれる。だからマリエッタも喜んでもらえるものを用意したい。
友人たちのことを考える、バターとお砂糖の香りに包まれるしあわせなひととき。
この手がしあわせを作ることが出来ることに、マリエッタは知らず幸福を覚えていた。
- 執筆:壱花
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