幕間
馬です。お任せします!
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関連キャラクター:シフカ・ブールカ
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- ひひん。
- 街中をてくてくと歩く馬――その名はシフカ・ブールカ。
名を呼ばれれば何処へでも主のもとへと駆けつける心を持つのだが、今現在は誰にも呼ばれていないので休憩中。
故に、街の中をゆったりと散歩していた。
「わー、みてみて、お馬さんがいるよ~」
「何してるんだろ~?」
街中の子どもたちがシフカ・ブールカを見て、楽しそうにしている。
馬が単独で歩いている光景というのはなかなか珍しいからか、わらわらと子どもたちはシフカ・ブールカを取り囲むように集まってくる。
これは挨拶をしなくてはなるまい。そう考えたシフカ・ブールカは1度立ち止まり、視線を子どもたちへと向けた。
「おやおや子どもたち、何か用かな?」
「「「喋ったーー!!」」」
突然喋る馬、もといシフカ・ブールカに遭遇してびっくりした子どもたちは半分は興味津々に残り、半分は恐怖に怯えて逃げ出していく。
この世界では様々な姿の者達がいるが、突然響くバリトンボイスのお馬さんというのはなかなかインパクトが強いものだ。逃げ出した子どもたちは責められない。
逆に残ってくれた子どもたちは何に興味を示しているのだろう。それを考える間もなく、1人の子供がシフカ・ブールカに向けて尋ねる。
「ねえねえお馬さん、乗ってもいーい?」
乗ってもいいか、と来た。
まあ自分は馬なので至極当然の問いかけになるが、シフカ・ブールカは1つ気になることがあった。
それは子どもたちの目線。見上げるようにシフカ・ブールカを見ている彼らは、果たして自分の背に乗れるのだろうかと。
「ああ、構わない。乗れるだろうか?」
「ちょっとしゃがんでくれたら大丈夫~」
「では、少し離れて。乗れるのは1人か2人までとしようか」
子どもたちから少し距離を取り、ゆっくりと地面に座り込むシフカ・ブールカ。
2人の子供をその背に乗せてゆっくりと立ち上がると……歓喜の声が背中から聞こえた。
馬に乗ったことのない子供だったのだろう、シフカ・ブールカがゆっくりと歩いてみるとぎゅっとたてがみを掴んでいるのがわかった。
「怖いかい?」
「ちょっとだけ怖い。でも、お馬さんが喋ってくれるから大丈夫!」
「僕も! ちょっと高いけど、ちゃんと捕まってれば大丈夫だよね!」
「ああ、そうだね。あの門の辺りで交代しようか」
「「はーい!」」
てくてく、てくてくと歩くシフカ・ブールカに合わせて、周りにいた子どもたちもついてくる。
周りの子どもたちは乗せてもらっている子どもたちに向けていろいろな言葉を出しているが、シフカ・ブールカが「順番に乗せるから大丈夫」と声をかけると安心した様子でシフカ・ブールカについていくのだった。 - 執筆:御影イズミ
- 優しき夜
- 鉄帝の夜に、寒い風が吹く。
「私の故郷じゃあ、沢山の馬がいたんだよ」
女は四十半ば、人生に飽きたような顔をしていた。シフカ・ブールカは何も言わず、愚直にたてがみを梳かす女の手を感じている。彼女の骨ばった手は労働の跡を感じさせた。
「道理で、撫でるのが上手なものだ」
「さすがに喋る馬はいなかったけどねえ……」
女は労働力として家から売り飛ばされ、工場を転々とし、気が付けばごみだめのような街にいた、と疲れた顔でぼやく。月も星もない曇った夜に、二人は何となく出会い、そして人のいない広場にいる。
女はシフカ・ブールカに体を寄せる。
「あったかいねえ。草原の太陽の温かさだ。短い夏の日の喜びだ……」
「なるほど? 君はどうやら詩人の才があるらしい」
「私の作じゃないよ、弟が昔言ったのさ。今はどうしているか知らないけど」
なるほど、と言いたげに馬はぶるる、と身を震わせる。
「馬さん、タバコ吸うかい?」
慣れた手つきでマッチを擦り、女は紙巻きタバコに火をつけようとする。
「そういったものは嗜まない流儀でね。それに、君、これで五本目だぞ?」
「いいのさ。肺が悪くなって死のうが、誰も困らない独り身だ」
魔法の馬は女の手を器用に尾で叩く。火のついたタバコが地面に落ちる。女は恨めし気な目でシフカ・ブールカを見るが、やがてあきらめたように息を吐いた。
「ほんと、あんたは弟に似ているよ。弟には尻尾はなかったけどね。口うるさくて、尊大で、声がいい……そして、こんな寒いってのに、側にいてくれる」
「お褒め頂き恐悦至極。私のありかたにかけて――この夜は君が望むかぎり、ずっと側にいようとも」
「富豪ならいいけれどねえ。馬にそう言われてもときめいた心はどこにも持って行きようがない」
低い声でシフカ・ブールカは笑う。
「望むならば、君を姫君にすることはできるがね――」
「片耳から通れば、だろう。耳を通るという言葉が意味不明だけどさ。ま、喋る馬ならそれくらいはできるだろうね」
なぜ試さない、と言いたげに馬は女を見つめる。爆ぜる光のような叡智を称えた瞳で。
女は返す。疲れ果てていながらも、己を己たらしめている意地だけはどこまでも持って行こう、と言いたげな瞳で。
「馬鹿言いなさんな、お馬さん。私は貧乏な独身女だけど、人の施しを受けるまでは落ちぶれちゃちゃいないよ」
「それはそれは、失礼をしたな、ご婦人!」
魔法の馬は、低い声で笑う。優しく、ひたすらに優しく。 - 執筆:蔭沢 菫
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