幕間
ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。
ご主人と猫
ご主人と猫
関連キャラクター:武器商人
- 理性と誘惑と、その間
- 「あー……こいつ、もう駄目だな。棄てよう」
「おや、どうしたんだぃ?」
いつもの様に屋敷へ遊びに来ていた商人は、洗濯物を干すクウハと出くわした。
庭の長いロープに色々と干す中で不意に止まった手。
見れば首元が伸び、意図していないダメージが背中に入ったロングTシャツ。
洗濯かごに残されるそれを見つめつつ、商人が口を開く。
「そのコは真砂に生かして貰うとして……新しいコを買いに行かないかぃ?」
やって来たのは、客層も店員も若くヤンチャな雰囲気の服店。
クウハは趣味に合いそうなものを手に取っては宛ててみせる。
商人はそれを眺め、ニコニコと楽しそうに笑う。
「なあ、これとこれだったら……どうした?」
ふら、と商人は届いたばかりの服をさばく店員へ近寄る。
店員の方も店の雰囲気に合わないミステリアスな客に寄られて困惑している。
「そっちのシャツと揃いのコがあるだろう、買わせておくれ」
商人の美しい指が差した先には、黒地に紫ラメのラインが襟と袖、それから胸元と背中に走るシャツ。
店員が慌てて左右対称のデザインのシャツと共に値札を付け、レジへ持っていく。
商人は会計を済ますと、やっぱりニコニコ顔でクウハの元に帰ってくる。
「まさか、それって」
「ヒヒ、帰ったら、帰ったらね。 “きっと合うよ” 」
「まったく……。それじゃ下は俺が買うからな、次いくぞ!」
そして三軒の店を回ってクウハが商人に選んだのは、裾だけ赤紫の黒い袴パンツにウエストチェーンベルト。
自分へは赤紫のラインが横に入った黒いラバーパンツを選び、同じウエストチェーンベルトを合わせた。
上着は黒いスペンサージャケットで揃えた。
帰宅後、お互いで選んだ服を着て見せ会えば、自然と笑みが零れる。
「ああ、やはりね……。とても似合うよーぅ」
「ん……慈雨もかっこいい」
最初はただ向かい会っていたが、そろそろと近寄ったクウハが座る商人の上に座り、前髪を撫でる。
「ところで旅人の国とかだと、服を贈るのは脱がしたいからだと言うが…………なあ、愛でてくれるか……?」
耳朶を擽りながら囁かれた言葉に、強欲にして傲慢の魔獣は音もなく笑ったのだった。
- 執筆:桜蝶 京嵐