PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

空翼(ソラ)を求めて

クウハとハンナさんの日常。

https://rev1.reversion.jp/interlude/detail/361?story=798
上記幕間から
https://rev1.reversion.jp/guild/1335/thread/21246
こちらのRPを経て恋人関係になりました。


関連キャラクター:クウハ

雨の日。
「……かくして、青年は蝋で仕上げた怪鳥の羽をその両手に、空へと飛び立ちました。高く、高く。太陽へと。」

「いや死ぬだろソイツ。」

「……御伽噺ですからね、クウハさん。」

 暗い森に佇む古びた洋館。その一室で、彼らは今日も静かな時を過ごす。長く続く雨に出歩く者はなく、そうなると森に迷い込む”おもちゃ”もいない。退屈が爆発して暖炉やキッチンを爆発させかねない小鬼たちと、それに対して爆発しかねない館の主を見かねて、彼の恋人であるハンナが本を持参し、小鬼や霊たちに読み聞かせる時間。霊たちは床に、壁に、天上に。ハンナの周りに集まって彼女の語りへと耳を傾ける。そしてその間、クウハは必ず同じ部屋でハンナの読み聞かせが終わるまで待機している。時折、つまらなそうに相槌を返しながら。
 そんな心配性なのか、構ってほしいのか、独占欲の強い恋人に苦笑して返すハンナ。その背には、蝋仕立てなどではない、白無垢の翼が一対。その翼に群がる小鬼たちは、さきほどまでハンナの読み聞かせる絵本にキャッキャとしていたが、クウハの不機嫌そうな声に、そそくさと翼の中へと姿を隠す。それを見てクウハが「その羽は俺んダ。」とさらに眉をつり上げるのを分かったうえでやっているだろう小鬼共に思わず殺気が零れるが、「私のです。」と羽の持ち主本人にぴしゃりと訂正され、さすがに続く言葉がない。

「っかし、こう長雨じゃ、カビが生えそうだゼ。」

 こんな館に住まう悪霊が何を言うのかとも思うが、そうは言ってももう数日続く雨に、ハンナも思わず窓の外を眺める。

「依頼とあれば天候など気にしませんが、用もなく雨の中を出るのも、ですね。羽も湿ってしまいますし。」

 そう言いながら、もう数日は羽ばたいていない翼を撫でる。

「んじゃ、いっそ濡れねぇとこまでいくカ。」

「……はい?」

 そう言って、ソファーに寝そべっていた体を起こし首を鳴らすクウハに、思わずハンナの口からは呆けた声が漏れる。

「この辺りはどこも雨だと思いますよ? ローレット支部まで行って、空中庭園を経由して他の地域へ行くつもりですか?」

 時刻はもう夕暮れ。遠出をするにはいささか遅い。

「いんや。こっからすぐだゼ。」

 クウハはそういうと、椅子に座るハンナの背と膝の下へと手を滑り込ませる。自然、お姫様抱っこされるハンナ。

「ちょ、ちょっと!? クウハさ、ん……」

 突然の行為に、頬を染めつつも幾分の怒りを込め強い口調で彼を睨みつけたハンナだったが、その背に輝くものを見て、瞳が見開かれる。

「……綺麗。」

 それは慈しみの雨と共に在ろうとして届いた頂。3対の翼。

「この羽なら、太陽に近づいたって溶けやしネェだろ。」

 そういって呆けたままのハンナへ自分のローブをかぶせると、あけ放った窓の縁へと足をかける。そこにきて、さすがのハンナも我に返る。

「ちょ、ちょっと、まさか、雲の上まで飛ぼうっていうんですか!?」

「アァ。今の俺なら、前よか上手く飛べると思うゼ?」

 そうは言っても。困惑するハンナの頬を撫で。

「魔法の絨毯はネェけどよ。俺を信じろよ、プリンセス。」

 そう、悪戯っぽく、けれど愛おし気に声をかけるクウハに。

「……貴方が一番、いつも私のお話、聞いてくれているんですよね。」

 返事の代わりに、その首へと両手を回し、身を委ねる。


 きっと、雲の上は晴れ渡り。2人だけのトワイライトな世界。
執筆:ユキ

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