PandoraPartyProject

幕間

空翼(ソラ)を求めて

クウハとハンナさんの日常。

https://rev1.reversion.jp/interlude/detail/361?story=798
上記幕間から
https://rev1.reversion.jp/guild/1335/thread/21246
こちらのRPを経て恋人関係になりました。


関連キャラクター:クウハ

消えない傷をください。
「クウハさん?」

「……あん?」

 強い日差しが差す昼下がり。木の枝の上で優雅に人間観察という名の昼寝としゃれこんでいたクウハが目を開けると、そこにいたのは見知った顔だった。

「何をしてるんですか?」

「あー……俺にしかできない大切な仕事さ。」

 ハンナの質問に適当に返しながら、その姿を見る。身の丈程の白い双翼は今日もまた綺麗なもんで。本当に

(アァ……うまそうだ……)

 そんな内に潜む黒い欲望など微塵も出さず。

「……密偵ですか? 任務中に、すみませんでした。」

 慌てて同じ枝に身を隠し声を潜めるハンナ。その、変わらないクソ真面目な様子にクハッっと笑いが零れる。何を笑うのかと怪訝な表情を浮かべる彼女。

「何もしねェのをしてんのさ。」

 その言葉を聞けば、彼女の怪訝な表情は途端、不機嫌なソレとなり。
 アァ、イイ顔だ。たまらないナ。そんな気持ちが口元を緩ませる。

「”また”揶揄いましたね?」

「”また”だなんて心外だゼ? 俺様は”いつも”揶揄ってんのさ。」

 かわらぬ調子に「ハァ」とため息を零す彼女だが、それでも怒りはしない。どうせなら怒った顔も見たいもんだが。

「私はもう行きます。そうだ。お暇でしたら、ご一緒しませんか。」

 そういいながら当然のようにクウハの手を取るハンナ。ぼんやりと彼女を眺めていたクウハは、状況把握が一手遅れてしまった。

「あ? ちょ、まっ……!」

「え? ヒャッ!!?」

 なにを思ったか、クウハの手をとったまま飛び立とうとしたハンナだったが、バランスを崩して落下。咄嗟にクウハがハンナを自分の腕の中に入れ、背中から繁みにダイブする形となった。

「す、すみません……」

 困惑しながらも謝罪するハンナ。その驚き戸惑う表情は中々にソソるものでまんざらでもないのだが、それを表には出さないのがクウハである。

「いや、何がしたかったんだヨ。」

「いえ、霊なら飛べるのではないかと思って……」

 呆れた様子で問いかけてみれば返ってきたのはそんな返答で。

「なるほどな……んで? どうだい。俺の腕の中におさまった感想は。」

 からかい半分にそんな問いを投げかけてみれば。

「……ひんやりしていて、気持ちいいかもしれません。」

 まだ混乱しているのだろうか。他意はないだろうに、そんな言葉を返されれば、噴出さずにはいられなかった。

「笑っている場合ではありません。背中、怪我していませんか?」

 心配するその表情もまたイイもので。

「気にすんなよ。かすり傷だ。どうせなら消えねェくらいの傷をつけてくれたっていいんだゼ?」

「ふざけないでください。ほら。」

 改めて手を引かれ。その小さな手を。自分とは違う温かいソレを感じながら思う。

(冗談じゃねぇんだけどな。)
執筆:ユキ
飛べないって言ったじゃないですか。
(……失敗しました。)

 陽を遮るもののない海洋の海上で、ハンナはフラフラと帰路についていた。

 一晩の哨戒任務。
 かつて軍属として幾度も経験したソレは、ハンナにとっては特に問題ない任のはず……だった。

(久々とはいえ、混沌に来て、弛んでいましたか……)

 かつて軍属だったハンナ。任務とあれば、休息もままならない。殊、女であるハンナにとっては、排泄行動一つをとっても大きな隙となる。なにより、銃剣を手放すわけにはいかず、かといって下げたまま軍服やハーネスを脱ぐなど、面倒極まりない。それゆえに、任務となれば自然、水分摂取は必要最低限となるのが兵卒としてのハンナの習慣であった。
 のだが。

(海洋の湿気を見誤りました……)

 軍服の中は汗まみれ。一晩中浴び続けた潮風が瞼以上に羽を重くする。

(あ……これは、本格的にまずいかもしれま……)

 ローレット支部まであと少し。その安心が緊張の糸を緩めてしまったか。
 とたんに視界が暗転する。

 ――落ちる。

 それがわかっていても抗う力はなく、ハンナは海面へと加速していく。
 落下死とは。翼人にとってはなんとも不名誉なものだ。
 そんなことを思いながら意識を手放そうとしていたハンナだったが、けれど、その時が訪れることはなかった。

「おいおい、オマエさん、そんなに俺の仲間になりたかったのか?」

 その声は最近聞き慣れた声で。
 その胸の冷たさは、先日感じたもので。

「……気持ちいい。」

 思わず頬ずりするハンナ。その表情は熱で上気し、常にはない艶っぽさを帯びていて。
 けれど、彼女を受け止めたクウハはそれに憮然とした表情を浮かべ、

「……そうかい、そんじゃ、もっと気持ちいいことしよう……ゼ!!」

「え……? ひゃっ……わぷっ!!?」

 2回。
 激しく上がる水柱。
 響く水音。

「ぷはっ!! な、なにするんですか!?」

「どうだ、ちったァ涼しくなったか?」

 突然ハンナもろとも海に飛び込んだクウハだったが、それも火照った彼女の体を冷やすため。

「それにしたって突然……そ、それにあなた飛べなかったんじゃ……!」

「俺ァ『飛べない』なんて言った覚えはネェがなぁ?」

 たしかにあの日、彼自身は一言も「飛べない」とは言っていなかった。

「……とにかく。ありがとうございました。」

「オウ。んで? どうする? プリンセス。」

 どこか揶揄うようなその笑みに、けれど、まだ本調子ではないからか。
 あるいは、なぜかその扱いも悪くないと、そう思う自分がいたのか。

「……そうですね。あなたのせいで羽が濡れてしまいましたから。責任をとって、乾くまでこのまま運んでくださいね。」

 そう返せば、一瞬意表を突かれたような表情を浮かべ、けれどクハッ!と笑って見せれば、彼はこう返すのだ。

「仰せのままに。マイレディ。」
執筆:ユキ
「なァ、ハンナ」
「なんですか? クウハさん」
 手元の本に目を落としたまま呼びかけに返事をする。前方から聞こえてきた声は良くよく知っているもの、また悪戯されるのではと反射的に読んでいる本を握る手に力を籠めた。
「いや、よくに用事はないんだけどな」
「そうですか」
 前方の気配が隣に移動して、ドカっと椅子に座る音が聞こえた。視界の端に彼のパーカーが映る。ちょんと尖って見えるそれはフードに付いた猫耳の部分。どうやら座った後そのまま机に突っ伏しているらしい。
 読書の邪魔にならないのなら、と意識を本に戻して数分後、また声がかかった。
「ハンナ」
「なんですか?」
「いや、なんでもねェ」
 短いやり取り、そしてまたしばらくの沈黙。溜息が聞こえたような気がしたが、そもそもクウハが何をしたいのかわからなければどういうすることもできない。強いて言うなら声だけかけて手を出してこないのは珍しいというべきか。
 そうこう思考するうちに視界の隅に映っていたパーカーが動いて、立ち上がる気配がした。そのまま背後に回ってきた気配は自分の読んでいる本を見ているのかしばらく動かない。

「わっ」
 突然、本が視界から消えた。正確に言えば伸ばされた手で取り上げられていた。何もしてこなかったのですっかり油断していたが、クウハと言えばこういう人だ。なんだかんだとちょっかいをかけてくる
「何をするんですか」
 顔を上げ、むぅとした表情を見せればクウハは機嫌よさそうにクツクツ笑う。
「あんまりにつまらなそうな本を読んでたから俺様が息抜きさせてやろうと思ってな」
「つまらなくはないのですが」
「いいからいいから、本なんか読んでないでどこかに遊びにいこうぜェ」
「そちらが本題ですか……」
 パタンと閉じられた本はクウハのそばに浮いている。試しに手を伸ばして取り返そうとしてみたがふわっと浮いて絶妙に届かない高さまで逃げていく。
「返してください、そうしたら付き合いますから」
「さっすがハンナ、わかってるじゃねェか!」
 嬉しそうな声と共に机に戻ってきた本。掴もうと伸ばした手は、しかしまた空を切った。目の前には揶揄うようにぷかぷか浮かぶ一冊の本。
「クウハさん!」
 少し強くなったハンナの声にクウハの笑い声が響いた。

 そう、今日も楽しく彼女を揶揄う。ピリピリ張り詰めたような顔をしてないで、女の子らしく表情を変えればいい。
 だからこれは自分の楽しいことと彼女のため。声が聴きたかった、なんて単純な想いはきっとどこにもないのだ。
執筆:心音マリ
その香りは無自覚の
 最近、屋敷に出入りする人間が多くなったから、とクウハは買い物がしていた時だった。
 日用品を買いに入った店の出入口付近、ふんわりと良い香りが鼻孔を擽った。
 早足で通りすぎてしまったその場所へ、慌てて振り返る。
 白く落ち着いた空間に様々な形の瓶たちが立ち並ぶ。
 品の良い字で書かれた文字で香水のコーナーと上から看板が吊るされていた。
 鼻が誘われるままに進めば、どうやら女性向けがメインのようだ。
 気にせず、先程の香りを探してみる。
 置かれていたムエット紙にワンプッシュしていって、ひとつづつ確認。
 やがて辿りついた正体は、陶器の瓶に入った香水だった。
 四角い瓶の表面にはアフタヌーンティーの様子が描かれている。
 香りもズバリ、甘いケーキのような優しいトップから爽やかに紅茶の渋みみたいなものが香った。
「あ、でもこのまま渡すと邪魔だよな」

 次の週末、ハンナはもう何度も通った屋敷のお茶会に誘われていた。
 クウハや屋敷に集う人達と過ごす楽しい時間はあっという間で。
 帰り際はいつも少し、どこか寂しい。
 そんな後ろ髪を押さえながら帰り支度を整えた時。
「ハンナ、これやるよ」
 そうクウハが差し出したのは、薄青いリボンで止められたグレーの箱。
ハンナが断って開ければ、あの時の香水瓶と指輪ケースに収まるチャーム。
「クウハさん、これは……?」
 驚いたハンナがクウハとプレゼントを見比べながらやや震える声で聞く。
 反対にクウハは楽しそうに答える。
「買い物に行ったら見つけてなァ。美味しそうな香りなんだぜ」
 つまみ上げたチャームには猫と小指ほどのガラス瓶が揺れ、中の香水が揺れる。
 それに釣られるようにハンナが嗅げば、なるほど甘く美味しそうな香りが鼻を楽しませる。
「ネックレスとかは邪魔だろ? 鞄やベルトにつけられるチャームなら落ち着きたい時に良いだろ」
 だからやるよ、とハンナの手に落とす。チャームの猫と目が合う。
 ハンナは断りかけて、ああやって頬をうっすら染めつつ礼を告げた。

執筆:桜蝶 京嵐
止まり木
 身体が重い。
 思考が定まらない。

 たとえ主と同じ不死性を得ても。その身全ての性質が彼と同質になったわけではなく。
 彼に近づけば近づくほどに、蝕まれるモノもある。アレはそう、抗いがたき甘美なる毒だ。
 それでなくとも、魂ではなく肉体の不死性についてはつい最近得たもの。
 痛みによって生み出される黒い暴力を翳せば、目の前で弱者をいたぶる愉悦から強者の尾を踏んでしまった絶望へと色を変える魂たちを眺めることができ、気分は高揚する。けれども、彼らを排除してしまえば、残るのは。

 あァ、だりィ。
 朝日がうぜェ。
 さっさと帰らねェと。
 帰る……?
 何処に?
 
 ――おまえの"家"だからね。

 思い起こされる甘美な呼び声に。
 同胞たちが待つ館へと向いていた足は、はたと止まり。
 ただひたすらに甘く優しく包んでくれる主の元へと、踵を返そう……という時だった。

 ……この匂い。なんだ。

 それは、どこかで嗅ぎ覚えのある匂い。
 人工的な甘く美味しそうな香りの中に確かに香る、温かなソレは。

「クウハさん?」

 声がした方に振り向けば、道端のベンチに座して本を読むのは見知った有翼の女。

「 ……おぅ、ハンナじゃねェか。奇遇だな。っかし、仕事もしねェで読書とは、いい身分だな。」

 無意識に。いや、自然ともいうべきか。
 呼吸するようにいつもの軽口を叩くクウハ。
 けれど。

「……あ?」

 突然目の前を何かが遮る。
 それがハンナの手だと気づくのに、一拍遅れた。
 視線を下げれば、いつもより近い彼女の顔。背伸びしているのだろう。下から自身を伺うその表情は、どこか心配げだ。

「どうかされましたか? お疲れのようですが。」

「あァ? なにいってんだか。あぁ、そうか。俺様が夜通し張り切って朝帰りするところだとでも思ったか? このっとおりピンピンしてんゼ?」

 そうやって、突き放す様に。
 踏み込まれないに。
 下世話に茶化してみても。

「でも、私にここまで近づかれても気づかないくらいにはお疲れなんじゃないですか?」

 ……敵わねぇな。

「……ちっと眠ィだけだ。心配すんな。」

 そうやって、額に当てられた手を振り払おうとすれば。

「……でしたら。」

「あ? オイ、何を……」

 払おうとした手を引かれれば、先ほどまで彼女が座っていたベンチへと誘われ。

「……なぁ、これは、どういうこった?」

「私の膝ではあまり寝心地もよくないかもしれませんが。」

 俗にいう、膝枕という奴だ。
 んなこたぁ分かってる。
 文句の一つでも言おう。
 そう思ったが、何故だろう。
 とたん、思い出したかのように強い眠気に襲われる。
 そういえば、最近はあんまりよく眠れてなかったな……

 そんなことを思いながら、無防備に眠ってしまうクウハの髪を撫ぜ、読書に戻るハンナ。
 晴れた秋の風が心地よく、猫のチャームを揺らしていた。
執筆:ユキ
膝上問答
「あぁ、クウハさん。今日は顔色が良さそうですね。昨日はよく眠れたんですか?」

「あ? あァ、そうだな。新しい枕があったのかもしれねェな。」

「それはよかったです。」

「誰かさんの膝ほどじゃねぇがなァ。」

「またお貸ししましょうか?」

「んにゃ。それよか、今日は俺の硬ェ膝を貸す番みてェだな。」

「? 私は別に眠れていますが?」

「んなひでぇ顔してか?」

「私が起床してから自分で鏡で確認していないとでも? 身だしなみは軍人の務めです。普段と変わりないでしょう。」

「昨日の依頼は、碌でもねェやつだったみてぇじゃねぇか。」

「……」

「天義やら鉄帝やら。女もガキも関係ねェ。嫌なご時世だこって。」

「それで、依頼で私が心的外傷を受けていると?」

「受けてねェってか?」

「馬鹿にしないでください。私は元々軍人です。」

「軍人様は依頼のためなら殺しもなんも気にしねェってか?」

「その通りです。」

「……ハァ。ったく、このばぁか。」

「……ちょ、何するんですか! 放してください……!」

「化粧なんざどこで覚えたんだ? けど、まだまだだァな。クマ、隠しきれてねェぞ。」

「……っ!」

「いんだよ。そういうのはな、俺みてェな根っこから黒い奴の仕事なんだよ。おセンチになったっていいじゃねェか。」

「……私は、そんな弱くはありません。」

「いんや。弱ェよ。」

「……私が女だからとでも?」

「わかってんじゃねェか。」

「……まさか貴方にそんな風に言われるだなんて……残念です。」

「弱ェところがあるくらいの方が、いい女だと俺ァ思うぜ。」

「……はい?」

「いいじゃねェか。俺みてぇに底の底まで真っ黒な奴にすりゃ、ちょっとばかし白すぎるくれェでもいいと思うぜ。その羽みてェによ。綺麗なもんじゃねェか。」

「き、綺麗だなんて、そんな……」

「お、ちったぁ顔色もよくなってきたんじゃねェか? ン?」

「か、揶揄わないでください! まったく、これだから……!」

「そうそう、ハンナはそうでなくちゃな。けど、ヨッっと。」

「キャッ!? ちょ!?」

「俺の膝を貸す番だ、っつったろ? おぅおぅ、見る見る顔色が良くなるなァ。クククッ」

「……もぅ! 貴方って人は!!」

「カハハ! ……ま、俺もひと眠りしてっからよ。今日の俺ァきっと爆睡しちまうんだろうなァ。そしたら何も聞こえやしねぇだろうなァ。」

「……ありがとうございます。……とでもいうと思いましたか?」

「ちょ、おまっ、くすぐんなっつーの! そこはシクシク膝を濡らすとこだろ!?」

「貴方が思う私は、そんなに弱い女ですか?」

「……ハッ! たしかに、ちげェな。」

「でしょう? ふふっ……」

 ――――でも。ありがとうございます。

 人肌とは違う、彼独特の、少しひんやりとした温もりが、熱を持つ頬に、瞼に、心地良く。
執筆:ユキ
このモヤモヤは。―買い物はまた後日―
 商店街、その中でもどちらかといえば女性向けの所謂ファッション街を行くは普段と変わらぬ猫耳パーカーのクウハと、今日は落ち着いたワンピース姿のハンナ。

「なァ~、ほんとに付き合わなきゃダメなのか?」

「貴方が言ったんじゃないですか。化粧がまだまだだと。あ、ここですねユリーカさんが教えてくれたお店は。」

 一軒の女性向けコスメショップのドアに手を伸ばせば、肩越しに感じる吐息。溜息交じりに、気だるげに、それでもレディーファストにとドアを開けるクウハが「どうぞ、マイレディ?」と揶揄うように笑う。

 いつもの彼。もはや照れるでもなく、けれど、どこか胸に温かいものを感じつつ「ありがとうございます。」と店内へ。


「きれいな白い羽に、お肌も白くて綺麗ですね!」

 ――その羽みてェによ。綺麗なもんじゃねェか。

 店員の営業トークに先日の言葉が想起させられて、知らず頬が熱くなる。きっと外に比べて店内が暖かいからだろう。

「……ところで、彼、素敵ですね。羨ましいです。」

「え?」

「お連れの方。彼氏さんですよね? 化粧品を一緒に買いに来るだなんて……」

「いえ、別に、そういうわけでは……」

「え? 違うんですか? ……じゃあじゃあ、紹介してもらえませんか?」

「はい?」

「私、ちょうど今フリーで。彼、ちょっと遊びなれてそうな感じがしてかっこいいから。」

「……」

「お店に入るときも、嫌そうなふりしてしっかりレディーファストしてるし、なんだかよくないです? ツンデレ、みたいな? 彼、なんて名前です?」

「失礼します。」

「え? あ、ちょっと……!」

 耳障りな声。何故だろう、何かモヤモヤする。店に入るまでの気分もすっかり台無し。とても買い物気分ではなくなってしまった。
 これはきっと、店員としての責務を果たそうとしないこの店員に失望したから。
 そう、それだけ。


「よう色男、昼間っから女連れかぃ?」

「あ゛ァ?」

「お、おいおい、そうツンケンすんなって。よくいるんだよ。彼女に引っ張られてきたはいいけど手持ちぶたさな彼氏ってよ。どうだぃ?彼女と上手くいってねぇなら、夜のアドバイスの1つでも。」

「昼間っから盛ってんじゃねェよ、ばぁーか。」

「……んだてめぇ。こっちが優しくしてりゃ。っけ、まぶい女が来やがったかと思ったら、てめぇみてぇなのと一緒ってこたぁ、こりゃとんだビッチか。お手付きなんざ、こっちから願い下げだっつー……」

 そこまで言って、男は突然その場に膝をつく。

「おぉい店員さん。このにーちゃん白目むいて漏らしてやんぞ。」
「え? ちょ!? きゃー! なにしてんのよ!」

 知りもしねぇでアイツのことを汚ェみたいにぬかすからムカついた。それだけだ。バァカ。
執筆:ユキ
人の気も知らないで。

「私、本当に怒っているんですよ」

 人気のない高台に2人。そう話すハンナに、クウハはそっけなく「別に初めてでもねぇだろ。」と返すだけ。

(もう、人の気も知らないで……!)

(……私の、気持ち……?)

 と、心の中で小首をかしげるハンナであった。

 なぜハンナがクウハに対して怒っているのか。それは……


 コスメショップを後にした2人。
 互いに、何故相手が不機嫌なのかは分からない。待たせてしまったから? 一緒に商品を探さなかったから?
 お互いに思う所はあるものの、本当の理由は闇の中。

「とりあえず……飯、くわねェか?」

 気づけば陽も高く。
 フゥ、とハンナも息を吐く。

「そうですね。買い物は、急ぐものでもありませんから。」

「そんじゃ……こっちだな。」

 ”オトモダチ”にでも聞いたのか、ハンナの手を取り歩き出すクウハ。その歩幅はやや控えめに。雑踏では前に。
 しばらく行けば、出店のパンと肉の焼けるいい香りが鼻をつく。

「コレと……ハンナはどれにすんだ?」

「あ、私はこれで。」

「ン。じゃそれで。お代な。」

 言うが早いか。さっさと支払いを済ませてしまうクウハ。

「あ、自分の分くらいは……」

 奢ってもらうつもりなどなかったハンナが慌てて財布を出そうとするも、「ほれ。」とクウハから包みを放られて、「わっ!?」と慌てて両手で受け止める。

 その時だった。

「え!? ちょっと、クウハさ……!!?」

「舌噛むなよ?」

 両手が塞がった隙に、クウハはハンナを所為お姫様抱っこすると、空へと舞いあがった。
 なんで、こんな。

(人目のあるところで。もーう!!)

 ハンナの怒りの原因であった。


 プリプリしているハンナ。その足元。たなびくワンピースの裾を見ながらクウハは思う。

 人気の店? 俺といるからってコイツが安く見られんのはうぜェ。
 場末の居酒屋? よっぱらい連中にコイツを見せてやるかっつーの。

「聞いてますか! クウハさん!!」

 こちらの気もしらないで怒れるプリンセスは、ったく。

「聞こえてんよ。つーかよ、お前も、自分の恰好考えろよ。」

「え? ……あ、もしかして、クウハさん。」

 そういいながら、ハンナは何かを察したのか。珍しくフフッっと笑って見せた。

「あ゛? 」

「クウハさん、私が飛んだら、下から見えてしまうって思ったんですか?」

「……」

「そんな迂闊なわけないじゃないですか。ほら。」

 そういいながら。
 特に恥じらうでもなく、当然のように目の前でワンピースの裾をたくし上げて見せるハンナ。
 なるほどたしかに。そこにはショートパンツの姿が見えた。
 同時に。ハンナの白く艶やかな。普段小柄でどこか幼く見えるものの、男から見ればまごうことなく”女の肢体”が。

「……」

「え、ク、クウハ、さん……?」

 無言のまま。
 真顔のまま。

 ゆっくりと伸ばされる筋ばった手。
 人よりも冷たいソレが、普段人の触れることのない太腿へと、静かに、優しく添えられる。

「……っ。」

 思わず身を固くするハンナ。
 けれど。
 抗えない。
 抗わない。
 ……なぜ?
 自分でも分からない。
 周囲の音が聞こえない。
 このまま……

「ひゃっ!?」
 
 突然ぐにゅっ、っと、無遠慮に太腿をつままれ。
 現実へと引き戻される思考。

「たしかに、こんなに細っこい足じゃ男も見ねぇか。お前はもっと食えよ。ほら。」

 そう言って、手にしたパンを口に押し込まれたハンナに、そっぽを向いたクウハの表情を伺うことはできなかった。

(昼間っから盛ってんじゃねぇよ。バァカ。)

 あれ。ところで、これ、間接キ……
執筆:ユキ
だから今日も、いつものように。
 ――化粧がまだまだだ。

 そう話す彼は、気づいていない。
 時々、その瞳がとても寂し気な色を湛えていることを。
 少しだけ染まる瞳。
 他人よりも冷たい肌、その中でうっすらと赤みと熱を持つ目蓋。
 あれは、きっと。

 でも、周りの人に聞いてみても、「いや、いつもとかわらなくね?」「あいつが? ないない。」と言われる。
 うん、きっと、その通り。
 彼はそういう人。
 飄々として。
 突然ふっと踏み込んできて。
 勝手に人の内側に触れてみせて。
 けれど、こちらが触れようとすると、ふいと離れていく。
 まるで、猫みたいな。
 それが、彼が見せる、作り上げた、世間の見た彼で。

 でも。
 それでも。
 私は気づいてしまって。
 どうしてか。
 なんでかは、自分でも分からなくて。
 それでも、胸が晴れなくて。

 どうして話してくれないんですか。
 何があったんですか。
 私には、何もできないんですか。

 けれどきっと。
 彼は私がそう言っても。
 いつものように笑って見せる。
 そして、本心を見せてはくれない。

 だから私も。
 いつものように。

「おはようございます。クウハさん。」

 あぁ、貴方を泣かせたのは、誰ですか。
 貴方はいったい、誰のために涙を流すのですか。
 ……私では……。

 空はこんなに眩しいのに。
 どうして、心はこんなにも晴れないのですか。
 なぜ。
 わからないの。
 誰か、教えて。
 私の知らない貴方が、知りたい。
 けれど、知ってしまうことが、怖い。
 どうしたら。
執筆:ユキ
とんだ悪霊様だぜ。
 ――責任をとって、乾くまでこのまま運んでくださいね。

 あいつはそうやって、無警戒に受け入れる。

 ――でも、私にここまで近づかれても気づかないくらいにはお疲れなんじゃないですか?

 あいつはそうやって、俺の仮面をはがしてくる。

 ――私の膝ではあまり寝心地もよくないかもしれませんが。

 あいつはそうやって、無遠慮に引き込んでくる。

 ――そんな迂闊なわけないじゃないですか。ほら。

 あいつはそうやって、無自覚に誘ってくる。

 そのくせ。

 ――え、ク、クウハ、さん……?

 あの表情だ。

 この情欲が、男と女の肉欲だけであれば、どれほど簡単か。
 いっそ一度食ってしまえばどうか。
 後腐れなくなるならそれもいい。
 色を知ってどう芽吹いていくか、それを見るのも面白いかもしれない。

 けれど、見えてしまう。
 そして、惹かれてしまう。
 そのまだ青く、けれど徐々に色味を帯びて熟れゆく果実(魂)に。

 手を出してしまえば、止まれるかわからない。
 抗える自信がない。

 抗う必要なんかねェはずだろ。
 これが他の奴だったらどうだ?
 なのに、よ。
 とんだ悪霊様だぜ。
 情けねぇったらありゃしねェ。

 魂を食べなくても死にはしない。
 別に今はひどく飢えても、渇いてもいない。
 そのはずなのに。
 アイツと会うたびに、俺の黒い部分が鎌首をもたげる。
 喉が鳴っちまう。

 そうして今日も旦那の元に足が向く。
 あの人の魔力に酔いしれることで、この衝動を、忘れられるカラ。
執筆:ユキ
今はただこの距離が。
「最近のあいつ、浮ついてねぇか?」

「いいじゃねぇか。悪霊と骸骨、お似合いカップルでよ。好き者同士でくっついて慰め合ってりゃ、かえって平和ってもんだろ。」

「「ちげぇねぇ。」」

 その会話を聞いたのはただの偶然。
 誰の名前も聞いていない。
 けれど、何故だろう。
 何故か、誰の事を言っているのか、察してしまって。
 察せるくらい、彼の機微に敏感になっていた自分がいて。
 何故か。

(あぁ。そっか。そう、ですよね。)

 そう、思えてしまう自分がいて。



 私は彼の事を何も知らない。
 彼を眷属にしたという、主さんのことも。
 お屋敷に一緒に住んでいるというたくさんの仲間や、居候しているという複数の同居人のことも。
 私が知っている彼は、とても薄っぺらい、表面だけの彼で。
 それでも何故か。
 私が。
 私だけが知っている彼がいる。
 私にだけ見せてくれる彼がある。
 そんな風に思い込んでいた自分がいたと。
 そんな、まるで年若く恋に夢を見る村娘のような愚かな自分がいたことに、驚きを覚えました。
 戦場で、多くの命を奪ってきた自分なんかにまだそんな甘さが残っていたのかと。

 けれど所詮、私は彼の「唯一無二」でも、「恋人」でもない。
 当然です。そうなろうとしたわけでもありませんし、なりたいと思っていたわけでもありません。
 ……思ってないんです。
 なにより、彼が私なんかをそういった目で見るわけがないんです。

 あの日だって。
 触れられた太腿は、いまだに彼の手のひんやりとしたぬくもりを覚えているけれど。
 彼のあの眼差しが目に焼き付いているけれど。
 
 それでも、彼はそれ以上、私に触れようとはしませんでしたから。

 彼にとっては私はただの知人か、友人か。あるいは、妹のようなモノ、なのかもしれません。
 だって、ほら。

「ヨゥ、ハンナ。しけた面してんな? なんか面白ェことしようゼ?」

 そういって彼は今日も、いつもと変わらず、私の肩を組んでくるから。
 変わらない態度。
 変わらない距離。
 変わらない関係。
 だから私も、いつもと同じ私で。

「おはようございます、クウハさん。仕事はしっかりしないといけませんよ。」

 今はただこの距離が、〇〇い。
執筆:ユキ
思い通じたその爽やかな朝に

「おはようございます。」

 微睡みから引き戻す、とても心地のいいその声。自分を見下ろす、思い通じた相手。

「悪ィ。寝ちまったか。」

 昨晩は叱咤を浴びて。そして受け入れてくれたことに安堵したか、またも彼女の膝の上で寝ちまうとは。

(もったいねぇことをした。)

 などという雄の声は、さすがにまだ出さないが。

「体調、大丈夫ですか?」

「アァ、最高の枕で寝たからな。」

 そう返せば微笑むその表情が、いつものそれよりもさらに柔和に、愛おしく見える。

「でしたら……今日は先日の買い物の続きでもいかがですか?」

「……あ゛ー……。」

 先日の買い物。それを思い起こし、思わず気だるげな声が漏れる。

「……なにかあったんですか?」

「アァ、いや……」

「な・に・か。あったんですか?」

 わざわざ言うのもなぁと躊躇していると、いつになく凄んでくるハンナに思わず気圧される。

(こいつ、こんなキャラだったか?)

「……なるほど、仮にも交際を始めた相手に、二股以上に言えないやましいことがあるということですか。」

 じとっとした瞳にすわった声で、そのまま窓へと向かおうとする彼女。

「おまっ、バカっ、んなのネェよ! ただなぁ……」

 慌ててあの日の出来事を説明するクウハ。
 背中越しにそれを聞いていたハンナは、「ハァ……」と一度息を吐き。
 振り返った時には、毒気の抜かれた、呆れたような表情で。

「なんですかそれは。どうして言ってくれなかったんですか。」

「いや、言えるかヨ。」

「……フフッ。でも、そうですか。そんなにあなたは私のことを気にかけてくれていたってことですね。」

「……あぁそうさ。俺のせいでおまえが安く見られんのが嫌だったんだよ。」

「フフッ。素直でよろしい。それに……」

 そういいながら、ベッドの隣に腰掛け、彼の肩へとしなだれかかる頭。

「……それに?」

「……私もなんですよ。」

「……」

 灰色の髪を撫ぜながら、言葉を待つ。
 彼女も嫌がるそぶりはなく。むしろどこか心地よさそうに。

「あの日、店員の女性に、あなたのことを彼氏と間違われて。違うといったら、紹介してって言われたんです。」

「……言えよ。」

 溜息まじりにそう返せば。
 肩越しに上目遣いでこちらを覗く女はどこか楽しそうで。

「言えますか? 彼は私のですよ、なんて。あぁ、なるほど。あの時のモヤモヤは、そういうことだったんですね。」

 そう話す彼女は、とても晴れやかに笑って見せる。
 
「……言ったでしょう? 私をなめるなって。もう一度昨日のやり取りをされますか?」

「いや、それはマジで勘弁だワ。」

「じゃあ、行きますよ。何かあったら言ってくださいね。私がなんて呼ばれていたか、ご存じでしょう?」

 そう言って話す彼女はもはや妖艶とも言えて。

「……今あなた、私のことを食べたいと思ったでしょう?」

「……オマエ、本当にそんなキャラだったか?」

「フフッ、女は変わるものですから。あなたのせいじゃないですか?」

 あるいは、かつて英雄と、魔王と言われた彼女の素養が開花しただけかもしれないが。
 俺色に染まる。そう言われ、思わず高ぶりそうになるものの、その前にすることがある。

「んじゃ、いくか、俺の灰色髪の姫(シンデレラ)。ただし行くのはこの間とは別の店な。」

「えぇ、そうですね。」

「指輪かピアスか。それともネックレスか。何がご所望だい?」

「え?」

 かけられた言葉に、二人の絆の証を見に行くと気づき上気する頬に、「……まだまだ可愛いお姫様だな」と笑みが零れる朝。
執筆:ユキ

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