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幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

らぁめん空観

関連キャラクター:彼岸会 空観

食レポ
●らぁめん空観
「……」
「……………」
「……………………」
「……何やの」
「はて、何やの、とは」
「……不倶戴天の癖にええ度胸やね?」
「はあ。何時から我々が不倶戴天の敵になったかは分かりませんが――
『たてはさんの中ではそういう事になっているのですね』」
「うちの中とか外とかやないやろ!!!」
 彼岸会の領地は静かなものだ。
 平素特に何事も無ければ変化がそう多い場所でもない。
 中央から遠く離れたこの場所は夏らしくも閑静な風情を醸しており、避暑地にも向いていよう。
 事の始まりは彼岸会 空観(p3p007169)がそんな自分の屋敷に紫乃宮 たては(p3n000190)を招いた事に起因した。
 やり取りを見れば分かる通り、死牡丹・梅泉(p3n000087)を間に挟み、些か穏やかならざるのはたてはだけであり、空観の方はと言えば『些か剣呑なる初恋』の行く末に関わらず、勝ち気で無鉄砲な―ーまるで妹を思わせるかのようなたてはの直情径行ぶりは実に愛らしく感じずにいられないのである。
「此度、らぁめんを拵えてみたのです」
「……」
「折角ですから、たてはさんにもご賞味頂けないかと」
「……それで、呼びましたの?」
「はい」
 首肯した空観に思わず大きな溜息。
 最愛の梅泉ともうずっと会えていない今時分、物憂げの極みにあった彼女だが、毒気を抜かれるとはこの事か。
「わざわざ呼び出した位です。それ相応のモノが出なかったら許さへんから」
「それはまぁ――ご賞味あれ、という事で」
 かくていそいそと『らぁめん』の用意を始めた空観の背を眺め、すっかり賓客の顔をしたたてははちょこんと正座している。
 京都に何百年の歴史を持つ名門・紫乃宮の令嬢だけあって、黙っていれば楚々たる美人そのものであった。
「出来ました」
「……ん」
 厨房の暑さに薄く汗を浮かべた空観の笑顔にたてはは少し罰が悪そうに頷いた。
「濃い口の醤油ベースやね」
「はい。これぞ、の生醤油に地元のこいくちを合わせてみました」
 着丼の姿は『清楚』である。
 細目のストレート麺は色味の強めな醤油のスープにその身を浸しており、メンマと叉焼が品の良い佇まいを見せていた。
「中華麺用の小麦粉を選んで麺から打っています。
 叉焼も塩麴で仕込んでスープで炊いて、メンマは日本酒を少々……ああ、すみません。
 つい、舌が滑らかになってしまったようです」
「……プロなん? アンタ」
 やたら本格的な空観にたてはは面食らうも、小声で「いただきます」と箸を持った。
「……」
「……………」
「……どう、でしょうか?」
「……………」
 小さな口でもぐもぐするたてはは無言のままらぁめんを食べている。
「やはり、口に合わなかったでしょうか?」
 人形のような彼女の姿に空観は幾分か不安な気持ちをもたげたが、
「……腹立つけど、良く出来てるわ、これ」
 根負けしたのはたてはの方だった。
「かえしは醤油の存在感が十分でキレがある。スープは雑味がなく真っ直ぐや。
 鶏油は香り高いし……何やろこれ。スープ自体がちょっと爽やかな感じもする」
 目を丸くした空観にたてはは続ける。
「麺もコシが入って素直に食べやすいし、小麦の味わいも十分やろ。
 叉焼は柔いけど煮崩れもしとらんし、箸でホロホロ解ける丁度いい塩梅や。
 ……トリュフ塩は好みでって聞いたけど、うちはあった方が好きや。
 キレのスープにコクが入る。多分これは好み次第やろけどね」
「……意外とお好きでしたか?」
「うちは! ……その、アンタの事やし。その内旦那はんにも出しそうやん。
 旦那はんの事やから面白がって強請るに決まっとる。
 妻として変なもん食べさせる訳にはいかないやろ、だから……その」
「……はい。ではまた試して頂かないといけませんね」
『大人』な空観はもごつくたてはに『譲歩』した。
 素直になれないお年頃というのは余りにアレだが、彼女の操縦法はとっくの昔に理解している。
「時にたてはさん」
「うん?」
「普段はどのようならぁめんを食されるので?」
「背油マシ、麺固めの豚骨……」
 そこそこ品の無い好みに、令嬢は思わず赤面していた。
執筆:YAMIDEITEI

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