PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

薄い本が厚くなったりならなかったり

関連キャラクター:杜里 ちぐさ

グラオ・クローネの災にゃん!?

「あっちからも、こっちからも、いい匂いがするにゃ~!」

 グラオ・クローネは無辜なる混沌だけに留まらず、お祭り好きな境界案内人たちの間にも浸透しつつある。
 チョコレートの美味しそうな匂いにつられて、ちぐさがふらふら館内を歩いているとーー

「あら。迷子かしら? 可愛い子猫さん」

 呼び止めた長耳の女性は、聖女の衣を黒染めにし、足をベルトで拘束したミステリアスな雰囲気の女性だった。
 名はロベリア・カーネイジ。どうやら彼女も境界案内人らしい。

「蒼矢を探してるにゃ。呼び出されたけど、待ち合わせ場所を教えてくれなかったのにゃ」
「信号機トリオの青いのね。彼の居場所に連れて行ってあげてもいいわ」
「本当にゃ? ロベリア親切なのにゃ!」
「蒼矢と赤斗は私の同期だから、腐れ縁みたいな物なのよね。……そうだ。その代わりにお願いがあるのだけれど」

 そう言って彼女は何処からか小皿を取り出した。上にのっているのはハート型のプラリネチョコで、とても食欲を誘う甘い香りを漂わせている。

「試作品なのだけど、誰も食べてくれなくて。ちぐさは私の手作り、食べてくれる?」
「いただきますにゃ!」

 口に入れればとろりと甘く、ナッツの香りが鼻を抜ける。美味しいとちぐさが味の感想を告げると、ロベリアは目を細めて「そう」とだけ言った。

――彼は知らない。ロベリアが毎年、グラオ・クローネのたびに、とびきり怪しいチョコ作りに精を出している事を。

(ちぐさの可愛さと私の『惚れられ薬』入りチョコ。いったいどんなトラブルが起きるかしら? ふふふ、今日は楽しい日になりそう!)


 チリンチリンとドアベルの音が店内に響き渡る。ここは蒼矢と赤斗が異世界で経営しているカフェ&バー『Intersection』。
 カウンターの中に立っている赤斗はバーテンダーの制服姿で、汚れひとつ無い様にとグラスを綺麗に磨いているところであった。

「お客さん、まだ閉店中……、ちぐさか?」
「確かに表の看板、Closeだったにゃ。出直した方がいいにゃ?」

 お邪魔だったかと、しんなり耳を垂らして謝るちぐさ。その姿を目にした瞬間――

 ズキューン!!

(ッ…! 何だ、心臓がバクバクする……。何でちぐさはいつも生足が綺麗なんだ? あぁっ、この猫又……すけべすぎる!!)

「待ってくれ、ちぐさ。帰るのだって大変だろう? 折角だから店でゆっくりして行くといい」
「本当にゃ? 蒼矢がここにいるって聞いてきたのにゃ。もしかして休憩中かにゃ?」
「アイツなら買い出しに行ってるぞ。グラオ・クローネ近くになるとカフェタイムがやたら混むからな。『待ち合わせに間に合わない』とか言って焦ってたぜぇ」

 カウンター席にうながされるままに座ったちぐさへ、赤斗は馴れた手つきでホットミルクを出す。添えられたのは銀の包装紙でくるまれたアーモンドのチョコレートだ。

「食べていいのにゃ?」
「勿論だ。……悪いな、出来合いのチョコしかなくて。俺は蒼矢ほど料理が得意って訳じゃねぇから」
「気持ちが一番嬉しいから大丈夫にゃ! 今日はいっぱいチョコが食べられて嬉しいのにゃ」

 外気で冷えていた身体が温まり、ほっと一息つくちぐさ。その様子をぼーっと惚けた様子で眺めていた赤斗だったが、抱えていた想いを抑えきれず、ごくりと唾をのむ。

「なぁ、ちぐさ。蒼矢なんか放っといて俺と来いよ」
「にゃ?」
「『ねこまた教』の衣装を作ったあの日から、ずっとちぐさに着て欲しい服を作り貯めていて――」
「何それ初耳すぎるにゃ!?」
「今夜は二人だけのファッションショーを楽しもう」
「赤斗なんかハァハァ言ってるにゃ、目を覚ますにゃ!」

 普段まともな者ほどタガが外れた時の行動力が恐ろしい。怯えるちぐさを前に、右手に軍服風アイドル服、左手に燃え袖白衣を持ってにじり寄る赤斗。

「ちょっと待ったー!!」

 脱がされると身を強張らせた瞬間、店の入口からエコバッグを両手にさげた蒼矢が二人の間へ割って入る。

「ちぐさには、これから僕がグラオ・クローネのお祝いにいっぱいケーキを食べさせてあげるんだから!」
「蒼矢……」
「カフェの明日の営業とかもうどうでもいいから、お店のスイーツ全部ちぐさに食べてもらうんだっ!」
「いや待つにゃ、そこまで食べるつもりはないにゃ!?」

 こちらに振り向き熱視線を向けてくる蒼矢。こいつも何だか様子がおかしい。

「ちぐさ、僕と一緒に甘い時間を過ごそうね?」
「どっちを選ぶんだちぐさ、もちろん俺だよな?」

 大人二人に迫られ今度こそピンチーーと思いきや、開けっ放しになった入口から、どうっと茶色い濁流が押し寄せて蒼矢と赤斗を押し流す。うぞうぞもぞもぞ。蠢くそれはどう見てもチョコで出来たスライムだ。

「ちぐさ、グラオ・クローネの贈り物だよ。受け取ってくれるね?」
「黄沙羅がこのスライム連れてきたのにゃ? 蒼矢と赤斗がめっちゃ襲われてるにゃ……怖すぎるにゃ」
「チョコレートを味わいつつ経験値も稼げたら、効率がいいと思ったんだ」
「どうしてそこに効率求めちゃったのにゃー!?」

 その後お店は大混乱。ちぐさを中心にスライムの討伐にあたり、なんやかんやで落ち着く頃にはロベリアの薬の効果も切れて、事態は収束したのであった。
……めでたしめでたし?

「全然めでたくないにゃ!」
執筆:芳董

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