PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

薄い本が厚くなったりならなかったり

関連キャラクター:杜里 ちぐさ

くろねこきねんび
⚫︎
 ちぐさは鏡の前で尻尾の毛を逆立てた。
 映り込んだ自分の毛並みは、烏の濡れ羽の様に真っ黒だ。ゆっくりと視線を落として自分で尻尾を見下ろしてみる。こちらも毛並みが真っ黒だ。夢じゃない。
「あら。思っていたより綺麗に染まったわね」
 慌てるちぐさの背中に投げかけられたのは、のんびりとしたロベリアの声だった。
「犯人はロベリアにゃ?」
「あら、自業自得だと思うわぁ。昨日そこにあったキャンディを舐めたでしょう?」
 今は空になっているテーブル上の皿が指し示される。覚えは…あった。昨日ライブノベルで仕事を終えた後、休憩の時に蒼矢がお茶と一緒に勧めてくれたやつだ。

『なんか不思議な味する飴にゃ。黒豆でもコーラでもないにゃ』
『名状しがたい不思議な味だよねぇ。誰が置いたんだコレ』

 冷静に記憶を振り返ると、確かに蒼矢が用意したにしては何も知らない風だった。

 拾い食い、ダメ絶対!

「はっ! 蒼矢はどうなっちゃったのニャ?一緒に飴たべちゃったニャ」
「やあ、ちぐさ。今日も依頼を受けに来てくれたのかい?」

 顎の無精髭をさすりながら本棚が並ぶ廊下から現れたのは、黒フードのローブを纏う黒髪の中年男性だ。

「ショウが図書館にいるにゃ?! あれ、でもちょっと違うにゃ」
「ははは。僕だよ、蒼矢だよ」

 彼曰く、朝起きたら髪が黒く染まっていたので服装を変えてみたとの事だ。

「アクセサリーにも拘ったんだ。この指輪は毒無効の効果があって、このネックレスは…」

 人って黒く染まると装備マニアになるんだニャとちぐさは聞き馴染みのあるフレーズに糸目になる。

「ほら、お兄ちゃん」
「?」

 ぽふ、と頭を撫でて抱き寄せられ、ちぐさは目を見開いた。

「今日は黒猫記念日だからね。どの異世界でもきっと主役になれる」

 行こう、と誘う蒼矢の骨ばった男らしい掌は太陽の様に温かい。どんなに姿が変わっても、どんなトラブルに巻き込まれても、家族だからとついつい許してしまうのは彼の為にならないだろうか?

「仕方ないにゃ。蒼矢が好きな世界を選んでいいにゃ。僕は蒼矢のお兄ちゃんだからにゃ!」

 手を繋いで笑い合い、二人は本の世界へ潜っていった。
執筆:芳董

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