PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

垣間見る1ページ

関連キャラクター:エドワード・S・アリゼ

深夜の訪問客
 静かな夜にふと、寝台の上で目覚めた。
 新たな拠点に移ってから約一か月。
 引っ越しの準備や家具選び。依頼に冒険と忙しない日々を送っていたが、ようやく一息つけそうだ。
 自分の好きなものが集い始めた部屋を眺め、エアは自然と微笑んだ。
 確かに目が回るほどの忙しさだったが、誰かと一緒の時間はとても楽しく、愛おしかった。
 けれども静かな時間がやってくると寂しさを思い出す。
 今日もずっと楽しかったのに。すぐ近くではエドワードが眠っているというのに。
 一人になると、満たされた心から波が引いていくように寂寥が顔を覗かせる。
 ころんと数度寝転がったエアは、意を決して起き上がった。
 手を伸ばした先の水差しは空っぽでランタンを手に階下へ降りていく。
「暗いですね……。でもエドワードくんを起こすほどではありませんし」
 見慣れたキッチンがいつもより広く感じる。
 早く水を飲んでベッドに戻ろうと水を汲んでいたエアが顔を上げた時だった。
 コツコツ。

 ――きゃぁぁッ!?

「エアッ!?」
「ぴゃ!」
 聞こえた悲鳴にエドワードは飛び起きた。新しいベッドで丸くなっていたコトもガバリと顔を上げる。
 パジャマ姿の一人と一匹はベッドから飛び降りると、悲鳴の聞こえてきた階下へ全速力で向かった。
「どうした、エア!?」
「え、エドワードくん。コトちゃん……あ、あそこに何か……」
 ひんやりとしたキッチンの床の上にぺたりと座り込むエアは薄暗い中でも分かるほど顔色が白い。
 震える指が示すのは窓の外だ。
「見てくる。コトはエアを頼むな」
「ピャッ」
 エアの前に立ったコトは鼻息荒く翼を拡げると、唸り声をあげるように口の端からチロチロと火を漏らした。
 その明りを頼りにキッチンにあった座敷帚を手にすると、エドワードはじりじりと窓へと近づく。
「き、気をつけてくださいね」
 壁に背をつけ、そろりとエドワードは窓の外を覗いた。

「ほっほー」
「うわっ!?」

 窓いっぱいに映る白いもやもやとした影。
 ぎょろりとした大きな目玉とエドワードは目が合った。
 コツコツ。

「……んっ?」
 先ほどから聞こえる異音は、窓の外にいる何かが嘴で窓を叩いている所為らしい。
 窓の鍵を開けたエドワードに、エアとコトはお互いに抱き合った。
「え、エドワードくん!? 危ないですよっ」
 軋んだ音をたてて窓が開いていく。
 そこにいたのは靄のように輪郭が曖昧な巨大な梟であった。
「夜分遅くに申し訳ない。私、向こうの樫の木に住んでおります霧梟のメンデルスと申します。散歩中、久しぶりにこの家から人の気配がしたもので、つい」
「あ、どうも」
 いきなり会話を持ちかけられ、エアとエドワードは戸惑いながら深夜の来訪者に会釈をした。
「オレはエドワード。向こうにいるのがエア。それから雛ワイバーンのコト。オレたち、ここを拠点にしてるんだ」
「ほっほ。これは可愛いご近所さんだ。この辺りも賑やかになりますな」
 メンデルスは鳴き声か笑い声か分からない声をあげると羽毛を膨らませた。
「引っ越しのご挨拶もせず、すみません」
 エアが恐縮したように言えば、メンデルスはいえいえと首を回した。
「ちなみに此処はカフェで……?」
「いや。店をやるかはまだ考えている途中なんだ」
「決まったらお知らせしますね」
「それは楽しみですな。次は昼に来ることにしましょう。忘れておりましたが人は夜眠るものですからな……では失礼」
 霧のように空気に溶けていく霧梟に二人と一匹は手を振り、窓を閉めた。
「不思議なご近所さんでしたね」
「だなぁ」
 二人は真夜中の訪問客が消えて行った方角をもう一度見ると、微かに笑いあった。
執筆:駒米

PAGETOPPAGEBOTTOM