PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

指折り数える日々

関連キャラクター:ジョシュア・セス・セルウィン

春を切り取る
 花の香りがする紅茶と共に机に置かれたのは、淡いピンク色をしたロールケーキ。ロールケーキの上には薄く色づいたクリームが波を描くように絞られており、桜の花びらがさらにその上に飾られている。花びらがはらはらと散っていく様子を切り取ったようなお菓子に、ジョシュアの胸が躍る。

「食べてしまうのがもったいないです」

 ジョシュアの一言に、リコリスは照れたように笑みを返す。「ジョシュ君が楽しみにしていてくれたから、張り切っちゃった」

 彼女がナイフを取り出し、ロールケーキを切り分けていく。小さな季節が、お菓子に閉じ込められていく。

「さ、食べましょうか」

 二人揃っていただきます。お菓子にそっとフォークを刺して口に運ぶと、ふわりと優しい香りが口の中に広がった。穏やかな甘みをほんの少しの塩味が引き立てていて、頬が落ちそうだった。

「美味しいです」

 ジョシュアが微笑むと、彼女がほっとしたように表情を崩した。自分を受け入れてくれる人がいること、共に過ごせることは嬉しいし、落ち着く。

 春らしいお菓子を食べていると、この前の依頼を思い出す。桜の精はどの子も素直で優しくて、彼女たちと共にあった桜は綺麗だった。その話をぽつぽつとしていると、リコリスは嬉しそうに目を細めた。

「実は私、桜の木は見たことなくて」

 ジョシュ君の話を聞いていると、見たような気持ちになれるの。彼女はそう笑っていた。
 桜が咲く場所が遠いのだと彼女は言うけれど、それ以前に、人に冷たくされるのを恐れてなかなか出かけられないのだと思う。自分が魔女であることを悩んでいるのではないかと気になるけれど、今は、あの宴会の出来事をたくさん聞かせてあげたいと思った。
執筆:椿叶

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