PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

Trick and tricks!

揶揄い好きな悪霊とイレギュラーズ達のお話。


関連キャラクター:クウハ

甘く潤す雨
 冷たい手がソレの視界を優しく覆った。

「ンー……何だぃ? 書類の仕分けが終わった?」
「おう、言われた通りに分けたぜ……って何でそのまま書き続けてるんだよ」
「何でってそりゃ、視えるからね」

 周囲から武器商人と呼ばれるソレは、己の眷属であるクウハの悪戯にも全く意に介した様子を見せずに正確に書類に筆記している。彼(或いは彼女)は商人ギルド・サヨナキドリの顔役という立場上、こうして執務室で山の様な書類に目を通し処理をする日がある。クウハもその手伝いをしているわけだが……

「いい加減休もうぜ? 俺に指示出しながら朝からずっと書き続けてるじゃねえか」
「おや、もうそんなに時間が経ってた? 我(アタシ)はもう少し書いてから休むから、何か食べたい気分であれば……」
「慈雨」

 クウハがソレの首筋に頬を擦り付けた。甘く呼ぶ名はクウハがソレに名付けたもの。普段はソレを旦那と呼ぶ彼が、2人の時に呼ぶ『特別な名前』。

「そろそろこっち見て、俺に構ってくれよ」
「……ごめんごめん。せっかく手伝ってくれているのに労いのひとつもしてやれていなかったね」

 ソレが筆記具を机の上に転がすのを確認すると、クウハもそっと手を外した。顔を覗き込んでみれば、底の知れない深さを湛えた菫紫の瞳が優しくクウハを囚える事実に酷く安堵する。

「お茶にしようか。紅茶と烏龍茶、どちらがいい?」
「前飲んだ烏龍茶が美味かったな」
「よかろ、茶菓子もそれに合わせよう」
「そりゃ楽しみだ」

 クウハはとろりと微笑む。愛する主人が手ずから用意してくれたものなら、それだけでいいものだ。
執筆:和了

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