幕間
ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。
Trick and tricks!
Trick and tricks!
揶揄い好きな悪霊とイレギュラーズ達のお話。
関連キャラクター:クウハ
- お揃い。
- その日。彼はいつになく不機嫌だった。
「それで?」
一言、ドスの効いた声で目の前で自身に正座をさせられている男(?)2人に問う松元 聖霊。
目の前の2人は彼にとって大嫌いな、好き好んで怪我を負うような馬鹿野郎共だ。怒髪天を衝くとはこのことだろう。
だがその雰囲気に対し、武器商人は朗らかに、むしろどこか楽しそうに「クフフ」と微笑み返す。
「我(アタシ)なら、今日に始まったことじゃないだろう?」
たしかに。彼(とここでは仮に呼称するが)はいくら傷ついても倒れぬ不死性と、痛みを受けるほどにより強く力を振るう悪辣な、医者からすればなんともデタラメな存在だ。
けれど。
と、武器商人がどこか楽し気に、聖霊が胡乱気に視線を横へと滑らせれば。視線の先には、聖霊と目線を合わせようとしないクウハの姿が。
そう、今日は何故か、彼もボロボロであった。理由は単純。
武器商人と並んで前に出たからだ。
「すみません、攻撃は僕が受けるからと言ったんですが……」
申し訳なさそうにそう話す水月・鏡禍も先ほどまでは軽くない手傷を負っていたはず。そのことを「おまえも……!」と指摘しようとした松元だったが、見れば、おそらくクウハたちが正座させられている姿を見てだろう、ちゃっかりこっそり絶気昂で怪我を癒していたようで。
「……これだから不死性を謳う連中は。この混沌において、いや、どんな世界であっても、本当の不死などありはしねぇんだぞ。命を軽んじやがって。大体な……」
こりゃ長い説教が始まりそうだ。マジこの幻想種おっかねぇ。
などとは口が裂けても言わないクウハだったが、チョイチョイとフードの中のうなじになにかが触れる感触を覚えれば。
となりで仲良く正座させられている武器商人、その長い髪の一筋がふよふよとパーカーの裾から入り込み、自分の首元を撫ぜている。何本かは首に巻き付いてさえいる。
当の髪の毛の主は可愛い眷属と”色々と”お揃いであることにご満悦なのだろう。「クフフ」という含み笑いを隠そうともしていない。
そんな主の様子に、クウハは髪を1本指で手繰り、その唇へと触れさせ。
そして次の瞬間、髪を加えて一気に引き抜き、そして、飲み込んでしまった。いきなり髪を抜かれた武器商人は「んっ……!」と一瞬反応するものの、いつだったか、ピアスに、羽根にと話をしたあの日を思い出し、また笑みを深め。
あぁ、今夜はいたずら好きの子にお仕置きをしないといけないね。
そんな会話が聞こえてきそうな仲睦まじい様子に。
「おまえたち。怪我人のクセに医者の前でイチャつくとはいい度胸だな。あ゛?」
訂正しよう。
その日。彼はいつものように不機嫌だった。 - 執筆:ユキ