幕間
ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。
Trick and tricks!
Trick and tricks!
揶揄い好きな悪霊とイレギュラーズ達のお話。
関連キャラクター:クウハ
- シャンデリアトラップ。或いは、誰も知らない古城の一幕…。
- ●ある夜、ある洋館
夜の闇を、知った顔が駆けていた。
フード付きのマントを羽織り、顔を隠した男の名前はアーマデル。アーマデル・アル・アマルでは無かっただろうか。
人気のない夜闇の中、蛇か何かのように音もなく走る彼の姿を目にして、クウハはにぃと口角をあげた。
アーマデルが向かった先は、丘の上の洋館だ。
街も、城も、人が住まなくなって久しいはずではあるが、果たしてアーマデルはこんな時間、こんな場所に何の用事があるというのか。
「まぁ、何でもいいやなァ」
呵々と笑って、クウハはするりと虚空を滑る。
「待ってなァ。その澄まし顔、すぐに崩してやるからよォ」
ぴちょん、と。
水の滴る音がした。
黴と埃の匂いが漂う廃城の一室。
燭台の明かりに照らされた床に、じわりと赤が広がった。
「供回りも無し、抵抗も無し……すっかり憔悴していたようだな」
こうなるぐらいなら、そもそも逃げなければいいのに。
そう呟いて、アーマデルは鞭剣を振り抜いた。
剣身を濡らす鮮血が、ぴしゃりと壁や天井に散る。
アーマデルが殺めたのは、とある都市で殺人を犯した1人の貴族だ。彼は罪が明るみになると同時に、数名の部下と共にどこかへ逃げ出したのだ。
暗殺を依頼されたアーマデルは、数日のうちに貴族の居場所を見つけ出す。すでに破棄された古い城に隠れ潜んでいるらしい。
連れていた部下との交戦を覚悟していたが……部下たちは既に貴族を見限り、どこかへ姿を晦ませた後だった。
暗殺にかかった時間はほんの数分。
剣を振った回数はたったの1度。
殺めた人数は1人。
準備にかけた時間に対して、仕事に浪費した時間は極僅かなものである。
「いや……もう1人いるか」
引き戻した鞭剣を、アーマデルは再度振り抜いた。
空気を切り裂き、刃が伸びる。
鈍く光るアーマデルの剣が、天井に下がるシャンデリアを切り裂いた。
一瞬の停滞。
プツン、と支えを切断されたシャンデリアが、貴族の遺体の上へと落ちた。
ガラスの砕ける音に、飛び散るシャンデリアの残骸。
その真ん中には、ぽかんと口を開けたクウハの姿がある。
「っ……ばっ!? い、いきなり斬り付ける奴があるかァ!? オマエ、これっ……危うく首と胴がお別れするとこだっただろうがよォ!」
「……霊が死ぬのか?」
呆れたように吐息を零して、アーマデルは剣を腰の鞘へと仕舞う。
シャンデリアに隠れていたクウハに気付き、前動作も無しに斬りかかったのだ。しなる刃はクウハの首元を掠め、シャンデリアの支えを切断。
「よからぬ気配を感じたが……そもそもクウハ殿は、シャンデリアを落とすつもりだったんじゃないか?」
「あー……ははァ」
アーマデルが指すクウハの手には、1本のナイフが握られていた。 - 執筆:病み月