PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

Trick and tricks!

揶揄い好きな悪霊とイレギュラーズ達のお話。


関連キャラクター:クウハ

驚く顔もまた良いもので
「全く、人を驚かそうだなんて、それでどんな反応を期待していたのかしら?」
 はぁとため息ひとつついたルチアは目の前で悪びれもせずへらへら笑っている悪霊を見た。彼の横には大きめの氷がふよふよ浮いている。早い話がこれを背中に突っ込まれそうになったのだ。突っ込まれるより早く落ちた雫が背中を伝い、慌てて振り向いて気づくことができたのは幸運だったのだろう。
 ちなみに雫の冷たさに悲鳴が上がりそうになったのは気力で抑えた。しっかりとした大人は何があっても早々動じたりしないものだから。
「せっかくだし麗しのレディの可愛らしい悲鳴一つ、いただいても罰は当たらねェかと思ってな」
「こんな子供の悪戯で驚くような女じゃないわよ」
「そうらしい」
 困ったもんだとクウハは首をすくめてみせる。
「というか、この氷どうしたの?」
 現在位置は幻想の街中だ。人通りの少ない道とはいえ、昼間になんで氷を持っているのかという話である。それとも悪霊なら氷の一つや二つ容易いのか、と思っていたルチアだったが、返事は意外なものだった。
「あぁ、最近暑くなってきたからかき氷でも用意してやったら喜ぶ奴もいるだろうなと思ってさ」
「買った氷を悪戯に使おうとしたの?」
 呆れた、とルチアの声音が告げている。だが、クウハにしてみたら友人の恋人が一人で歩いているのだからちょっと手を出してもいいかな、という気持ちになったって仕方がない。そもそも揶揄ってやろうと思い立って我慢できるほどできた存在なら悪霊なんかやってない。
 もちろん傷つけでもしたらその友人がどうなるかなんて火を見るよりも明らかだから本当に軽い悪戯に留めたのだが。
「必要ならまた買えばいい。そんなもんだろ?」
「そうだけど……」
 ルチアの視線はクウハから溶けかかっている氷、そして滴り落ちる雫へ。地面を濡らしたそれは地面に染み込んでいく。頭の中では物は大切にと言いたいような、無駄にはなってなさそうな状況でこれ以上も言うのはどうか、といったところだろうか。
「ま、あなたが良いのならいいのだけれど。でも人を揶揄うのはほどほどにね、待ってる相手がいるのでしょう?」
「だな、買い直すなりなんなりして今度は素直に帰るサ」
 じゃあ、とルチアは一礼して去っていく。その背中に向かって。
「ところで……驚きに丸くなる目は、なかなかいいもの見せてもらったゼ」
「ちょっと?!」
 手を振りながら言えば、焦る声が後ろから追いかけてくる。が、クウハは気にせず歩いていく。
 うむ、いいものを見せてもらった。だがこれを妖怪の知り合いに話すかは……別の話だろうな。なんて思いながら。
執筆:心音マリ

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