幕間
ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。
Trick and tricks!
Trick and tricks!
揶揄い好きな悪霊とイレギュラーズ達のお話。
関連キャラクター:クウハ
- 惚気、のち、怖気
- 「彼女さんとも仲良しみたいですね。」
そう声をかけてくる鏡の小僧の頭を無遠慮にグーで小突く。けれど鏡禍にとってはその程度たいしたこともなく。変わらず隣の彼へと生暖かい微笑みを向けている。
「あぁあぁそうだよナァ。おまえさん、いつか言ってたもんナァ? 『誰かとの繋がりは温かいものだ』とヨ。あん時ゃさんざっぱら惚気やがっテ。」
今度はゲシ、っとその背中を足蹴にするが、それも鏡禍にとっては大したダメージもなく、「汚れるじゃないですか、もう」とぱっぱと払う程度のこと。
「そういうおまえさんは、ちゃんと進展してんのか? ア?」
そう言われると、正直自信がないところもある。それでも。
「僕たちには僕たちのペースがありますから。」
自分が強くなっていると自覚できる。
厳しい場面でも、彼女を守ることができたから。
「いっちょ前に自信満々な男の顔しやがって。鏡禍のくせにヨ。つきあってらんねぇワ。俺も彼女に癒してもらうとすっカナ。」
最後には尻に蹴りまでいれてくる友人に、思わず苦笑が零れる。
「少しは手加減してあげてくださいよ。彼女さん、僕みたいに頑丈ではないでしょう?」
なんとなく。そう、なんとなくだった。そう声をかけると、彼は足を止め、こちらを振り返った。その時の彼の表情に、鏡禍は背筋に冷たいものを感じた。悪霊である彼が。
「あん? それはお前が一番よく知ってんだロ?」
彼の言葉の意味が分からない。
「あぁ、でも、お前が知らない顔もあったナァ。ありゃぁ最高だったゼ。血みてぇに赤い髪を振り乱してヨ。」
……待て。彼の恋人に、赤い髪の持ち主なんていない。だって、その髪の持ち主は……
「クウハ、何を言ってるんだ?」
纏う悪気が漏れ、口調が昔のソレに戻ることも構わない。
「鈍いナ。それとも、認めたくネェのか? 旨かったゼ。お前の彼女の血……」
最後まで言葉が紡がれることはなく。本来堅牢なる城壁を破るような一撃が、目の前の友人を薙ぎ払う。けれど。
「……オイオイ、ご挨拶だナ? だが、間違っちゃいネェ。躊躇せずに必殺をぶち込むのは正解だ。本来ならナ。」
そう言葉を紡ぐ友人の身体に首はなく。されどあたりを染める赤もなく。一面にはまるで蝶のように可憐な紫の花、花、花。
「おまえは誰だ。」
これはクウハではない。そう確信をもって言葉を投げるが、目の前の身体は彼の仕草そのままに肩をすくめて見せる。
「俺はお前の大事な大事なオトモダチだゼ?」
「違う。クウハは俺の彼女を傷つけない。」
「烙印に侵された者がいつまでも正常だと思うか?」
その言葉に一度、言葉が詰まる。
「お前の罪は忍耐だ、鏡禍。なぜ抗う。欲望に。本能に。獣性に。故にお前は、誰かに奪われ、嫉妬する。」
そんなことはない。そう返したくても。言葉が出なかった。
「先ほどの躊躇なき撃は見事であった。だが、貴様は何に怒りを覚えた。友人を騙ったことか? 否。愛する者を辱められたことか? 否。己が手で……」
「黙れ!!」
そう叫ぶだけが、精一杯だった。
「人間との距離を、ゆめ、はかり間違うでないぞ。鏡の悪霊よ。」
その声を最後に……
…………
……
「……だぁから言ったろ、軽い気持ちで来んじゃネェって。ヒデェ顔してんぞ、お前。」
腹を蹴る友人の小言に、これは現実だとそう認識する。
あたりを見れば、先ほどまで気づかなかったが、小さな花が点々と、こちらを見ているようだった。
ロベリアの花。
花言葉は『悪意』。 - 執筆:ユキ