幕間
ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。
突撃!隣の盤を後破産!
突撃!隣の盤を後破産!
悪人共になら何やったって構わねェよな!とばかりに
凶行を愉しむ2人の話。
例え普段の様子がどうであろうと
根はまごう事なき「悪」なのである。
関連キャラクター:クウハ
- 紫パーカーに気をつけろ。
- 「よぅ、そこの小綺麗な兄ちゃん。ここをどこだと思ってんだ?」
紫色のパーカー、そのフードを目深に被った男が、裏路地を行くスーツ姿の男の道を塞ぐようにその足裏を自身が背を預けるものとは対面の壁へと伸ばす。
行く手を遮られた男は、大事そうに荷物を抱えながら、ハットから覗く目を糸のように細め、目の前の男を警戒しているようだ。
「……私に何か御用でしょうか?」
発せられる言葉も硬い。
「ハッ、『御用でしょうか?』とはまたお上品なこった。わかってんだろ?」
道を塞ぐ足を下ろし、正面へと向き直る。その手にはナイフが。
「……っ!?」
身構えるスーツの男だが、気づけば自身の背後を塞ぐように別の男が姿を現わしている。それも一人ではなかった。
「なぁ、あんたみてぇな上流なお方はご存じねぇかもしれねぇがよ。最近巷じゃ、こんな噂があんだよ。」
手にしたナイフをちらつかせながら、紫パーカーの男は一歩。また一歩と獲物へと近づいていく。その顔にはひどく残忍な笑みを浮かべ。
「『紫パーカーの男にゃ気をつけろ。森に攫われるぞ』ってな。」
「……それじゃあ、貴方が、噂の……」
スーツの男は自身の窮地を察したか、顔を伏せ、力なく荷物をその場に取り落としてしまう。
「おいおい、大事な荷物を落としていいのか? 何かしらねぇが、食いモンでも割れモンでも、傷ついたらどうしてくれんだよ? あ゛?」
ブルっちまったんだろう。退路を塞ぐ男たちは嘲笑を隠さず。パーカーの男はすでにそれは自分のモノとでもいうかのように、落ちた荷物に手を伸ばす。だが。
(こんな小綺麗な身なりの男が持つには、やけに汚ねェ袋だな。それに、なんだこの臭い……)
違和感は一つではなかった。だが、相手は何を急いでいたのか自分たちの縄張りに迷い込んだ優男一人。見たところ大ぶりな得物も持っていない。対してこっちは複数人。明らかに有利な状況が、状況把握を遅らせた。
拾った袋は、思ったよりも重さがあった。そう、まるで、”人の頭”くらいの……
「……ヒッ!?」
それが何かに気づいたパーカーの男は、一度は手にした荷物を落とし、とび退る。無残に落とされた袋から転げ出て目が合った”ソレ”は、男にとっては知った”顔”だった。その表情は、いままで男が見たことのあるものではなかったが。
「オイオイ、大事なお仲間だロ? もうちょっと大切に扱ってやれヨ?」
その声は、本当に目の前のスーツ姿の男から発せられたものだったのだろうか。明らかに、さっきまでの雰囲気とは違う。獲物だったはずの男は、ゆらりと背を伸ばすと、ハットを脱いで、髪をかき上げて見せる。その色は、紫。
「……アァ、表情つくんのも疲れんゼ、ったくヨ。スーツもかたっ苦しいゼ。」
ジャケットを脱ぎ捨てると、その下から姿を見せるのは、あぁ。アァ。
「紫……パーカー……」
タイを緩め。背中から引っ張り出したフードを被り。両の手をポケットへと入れ。男は、嗤った。
「ヨゥ、嘘吐き野郎。お前の嘘を本当にしに来てやったゼ?」
『森には紫色の悪霊が住んでいて、時々人を攫って行く。』
一時期、とある町で語られた噂。実際に女子どもが失踪したり、男が変死体で発見される事件がいくつか発生し、恐れられていた。しかし、後にそれは人攫いを生業にする小悪党どもが流した噂だったと。そういうことに、なっている。
表向きは。 - 執筆:ユキ