PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

アンテローゼの一幕

関連キャラクター:アレクシア・アトリー・アバークロンビー

ほろ苦いショコラタルト
「ショコラタルト?」
 午後のティータイムに呼び出されて青白い顔をしていたイルスへと声を潜めてフランツェルは「そうなの」と頷いた。
 今まで魔種に関する研究を(引き籠もってとは言い辛いが、それなりに自由に)行ってきていたイルスは現在、リュミエとの協力体制下であくせく働いているらしい。
 どちらかと言えばリュミエの言い付けを護らない不良・フランツェルがイルスに気遣ったのは自分の分も懸命に働いてくれているからなのだろう。
 ――それは兎も角、だ。
「ショコラタルトがどうしたって?」
「実はルクアが作りたいと言ってきて。理由を聞いたら甘ったるいアップルパイは完璧だからほろ苦いショコラタルトをプロの腕にしたいっていうの」
「……それはルクアがアレクシアの好みを聞けないから手当たり次第に菓子を作っておきたいという?」
「だと思うわ。ルクアったらアレクシアさんを見たら『生きてたのね』『元気そうじゃない』なんていうでしょう。
 あの子、妙に意地を張っているというか……本当は心根も優しい子なのに、素直になれないままというか……」
 イルスは「まあ」と濁すようにティーカップを傾けた。病の進行は緩やかであれども、ルクア自身は死を渇望した経験がある。
 それ故に、命を救う為に手を伸ばしたアレクシアに少しばかり気まずさを感じているのだろう。何せ、イルスから見ても弟子は『真っ直ぐ』な娘なのだ。
「それを伝えてきたのは、それとなくアレクシアに最近の好みを聞いておけと言うことか」
「ええ。だって、このまま試食させ続けられたら私太っちゃうわ!」
「……手遅れでは?」
「言ったわね。リュミエに此処でサボってること伝えて――」
 フランツェルと叫んだイルスはその口にルクアの作成した一口アップルパイを詰め込んだ。
「う゛」と『魔女様』らしからぬ声を出したフランツェルはご多忙を極め続ける友人にルクアから差し入れを入れてやってくれと注文でも付けてやろうかと蒼い顔をしたイルスを眺めて思うのだった。
執筆:夏あかね

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