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幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

華蓮ちゃんの可憐な日常

関連キャラクター:華蓮・ナーサリー・瑞稀

静謐な朝。或いは、華蓮の忙しい1日…。
●ある日、朝焼け
 東の空に陽が昇る。
 瑞稀神社の一室で、華蓮・ナーサリー・瑞稀が目を覚ます。
 ちちち、と小鳥の囀る声と、遠くで聞こえる潮騒の音。
 夜の間に少し雨でも降ったのだろう。
 雨上がり特有の、湿った草と土の匂いが華蓮の鼻腔をくすぐった。

 手早く髪と翼に櫛を通した華蓮は、白い小袖と緋袴を身につけ外に出た。
 所謂、巫女服と呼ばれる装いだ。
 年季の入った衣服であるが、経た年月に比して痛みはごく少ない。
 投げるな、置くな、跨ぐなの3原則を徹底しているからだろう。華蓮は箒を手に取って、しずしずと境内をぐるりと1周。祀った神へ一礼すると、静かな所作で積もった塵や落ち葉を掃いて集めて回る。
 鳥の鳴き声。
 波の音。
 澄んだ空気が肌を刺す。
 箒で境内を掃き清めるという行為が、華蓮は思いのほか好きだった。箒で塵を掃く度に、綺麗になっていく境内を見る度に、心の奥の澱みが拭い去られるような気がするからだ。
 神社特有の清浄な空気を肺いっぱいに吸い込めば、自然と白い翼が揺れる。
 ばさり、と。
 上機嫌に翼が踊ると、集めた塵が吹き散らかされた。
「……あ。やってしまったのだわ」
 口元に手を当て、目を丸くする。
 誰も見ていないというのに、思わぬドジに頬を僅かに紅潮させた。

 掃き集めた塵は、境内の外に掘った穴へと埋めておく。
 次は濡らした雑巾を持って、賽銭箱や手水屋を磨く。
 何年も何年も繰り返した行動だ。
 手順はすっかり身に沁みついているため、掃除を行う動作には微塵の無駄もない。
 静かに、丁寧に、けれど迅速に。
 広い境内を、たった1人で掃除し終えて華蓮は額を手の甲で拭う。
 目が覚めてから小一時間は経っただろうか。
 つまり、太陽が顔を覗かせてから過ぎた時間もそれぐらいということだ。
 気づけば気温も、幾らかだが高くなっていた。
 額に滲んだ汗が一筋、華蓮の頬から顎へと伝う。
 寝起き早々に一仕事。
 しかし、華蓮の朝の務めはまだ終わりではないのである。
「朝餉の支度と、朝の神事と、それからくじの準備と……あぁ、今日はローレットの仕事があるのだったわね」
 箒と雑巾を所定の位置へと仕舞った華蓮は、手を洗って調理場へ。
 先日、訪ねて来た領民が置いていった野菜と山菜があったはずだ。
「吸い物の具は大根とごぼうでいいかしら?」
 上手くできたら、レオンへの差し入れとして持っていくのもいいかもしれない。
 どうせ、忙しくて碌な食事もしていないのだ。
 そうでなくとも、イレギュラーズの中には日常生活が壊滅的に雑な者も多いのだ。
 例えば、廃墟で寝泊まりしている世捨て人。
 例えば、日がな一日、本ばかり読んでいる趣味人。
 例えば、年中を通して戦場を渡り歩くばかりの戦人。
「皆、もう少し健康にも気を使った方がいいのだわ」
 なんて。
 溜め息混じりにそう呟くが、だからといってその者たちの生き方を徹頭徹尾否定する気にはなれない。
 むしろ、自分の心の赴くままに自由に生きる仲間たちに羨望の想いさえ抱くほどだ。
「お役目のある生活と、何ごとにも縛られることない自由な生活……どっちが恵まれているのだわ?」
 何度、そんな問いを繰り返しただろう。
 何度、神へ問うただろう。
 これまで、ほんの1度たりとも、納得のいく答えを得られたことは無い。
 それでも、ふと思い立っては、神に、友に、自分の心に問いかける。
「ふふ。きっと私はみんなのことが羨ましいのだわね」
 変わらぬ毎日を過ごし、イレギュラーズの仲間たちと仕事をこなし、そうすればいずれ“答え”を得られるかもしれない。
 なんて。
 そんな下心はともかくとして、今日の朝餉は少し多めに作って行こう。
 共に仕事へ赴く仲間たちが、腹を空かせていないとも限らないからだ。
 仲間たちは“美味しい”と言ってくれるだろうか。
「あぁ、今日も良い一日になりそうなのだわ」
 なんて。
 雲ひとつない空を見上げて、華蓮はくすりと微笑んだ。
執筆:病み月

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