幕間
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関連キャラクター:九十九里 孝臥
- その日世界が終わるなら
- 「なぁ、孝」
「ん?」
「もしも明日世界が終わるなら、何が食べたい?」
明日世界が終わるなら。聞き飽きた質問だ、なんて弦月は思う。そのくらいちっぽけで、特に意味のない質問だった。
退屈しのぎといえば聞きは悪いが、興味がないわけではない。好きな食べ物について知ることができるからだ。
孝臥は案外真剣に悩んでいるようで、うーんと唸りながらしばしの間思案する。こんな些細な質問にも健気に真面目に答えようとするところが、孝臥のかわいいところなのだ。
(なんだろーな……味噌汁、焼き魚……漬物も捨てがたいか?)
悩んでいるところを見るとつられて考えてしまう。クイズみたいだ、なんて思う。
「朝から夜まででよければ、決まった」
「お。聞かせてくれ」
孝臥は頷き、ゆっくりと口を開く。
「朝はまず俺の作った飯を食べたい。弦と一緒に。これは内容はなんでもいいけど……今の気分は卵かけご飯だな。焼き魚と、あととろろもつける」
「……旨そうだな」
「だろう? まずは和食で一日をはじめるんだ」
新婚さんみたいだな、とは言わない。まだ。どうせいつか付き合うのだ、誤差だ。とはいえやはり二人で迎える朝は格別以外の言葉は相応しくない。
弦月から好感触を得られたのが嬉しかったのだろう、ゆるゆると頬を緩めながら孝臥は昼のプランについて語りだす。
「昼はうーん……ジャンクフードかな。ハンバーガーとポテト。系統を変えてステーキなんかもいいな。何か買い物でもしながら、ついでにがっつり行きたいところだ」
「おお、いいな……駄目だな、腹が減ってくる」
「はは。それなら夕食は早めにするか」
楽しそうに笑う孝臥の顔は幸せ以外の何物でもなくて。そんな孝臥の笑顔は自分以外の誰も知らないのだろうと思うと、弦月は堪らなく嬉しくて、愛おしくて、抱き締めたくなってしまうのだ。
「で、夕食。今の気分なら……イタリアンかな。安くても高くてもいい。チーズとか、ベーコンとか。その辺りの贅沢なものと一緒にワインを飲むでもいいし……家で唐揚げとかもいいなって。二人で酒盛りとか」
「どっちも捨てがたいな……ところで」
「?」
「最後の日も俺と一緒に居たいっていう解釈でいいのかな?」
「……どうせ過ごす相手も居ないんだから、いいだろう!」
気になっていた弱点をつんとつけば、みるみる赤く染まる頬。孝臥は慌ててそっぽを向いて、赤い頬を隠してしまう。
(……かわいいやつ)
よしよし、と頭を撫でてやれば、一応払いのける素振りは見せるものの手をどかそうとはしない。わかりやすいものだ。
「はー、こんな話してたら腹減ってきた。晩御飯なんだ? 俺も手伝うから、はやく仕上げようぜ、孝」
「……ああ、わかった。今日は実は唐揚げなんだ」 - 執筆:染