PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

窓際族生存記

関連キャラクター:回言 世界

ティー・ポットにお砂糖を
 ――まずティー・カップの紅茶に満月を映して、お砂糖をひとさじ加えます。
 ――次に満月を溶かし込むようにティー・スプーンを時計回りにひとまわし。
 ――お願い事を3回、唱えれば。

「願いが叶うでしょう、ってか。おまじないってやつかよ」
 ぱたむ、と本を閉じれば回言 世界はため息を一つ吐いて紅茶を啜った。そして顔をしかめる。
 境界図書館にあった妙にスピリチュアルな本を借りてみれば、それはどこかの世界の妖精が行うようなおまじないの手順が記されていた。
 ありがちといえばありがちだが、何処の世界でも「自在に願いを叶える」というゆめには事欠かないということなのだろう。
 もしも、願いが叶ったら。
 呪いのように外れないカチューシャを外せるのかもしれないし、眼鏡が割れないようにできるのかもしれない。
「ああ、甘いものを目の前にどーんと出してもらうのも悪くないな……」
 そんなことを考えながら紅茶をもう一口。そしてやっぱり顔をしかめる。

 おもむろ世界は立ち上がると、テーブルの脇にあった砂糖を掬ってティー・カップに――ではなく、まだ紅茶の残るティー・ポットにひとさじ、ふたさじ、みさじ……ごさじほど入れたところでくるくると反時計回りにかき混ぜる。
 白い砂糖が紅茶の橙に溶けていく。
 ふわりと立ち上る紅茶の匂いに甘ったるさが加わったところでティー・ポットの中身をどぼどぼとカップに追加。
「うん、いい味だ」
 すっかり甘ったるくなった紅茶を啜って満足そうに声を漏らす世界。
 ああ、結局おまじないだなんだというけれど。
 ティー・カップに砂糖ひとさじだけなんて苦すぎるに決まっている。

 満月のない暗い空に、ティー・ポットいっぱいの砂糖で喉を潤し、願いごとは唱えない。
 それでいい。
 今願うことがあるとすれば、この退屈で騒がしい、平凡で非凡な、どうしようもなくてそう悪くない世界を謳歌すること。
 きっとそのことだ。
執筆:凍雨

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