PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

窓際族生存記

関連キャラクター:回言 世界

ひといき
「あ、世界だ」
「そういうカナタは……最近元気だったか?」
 境界図書館をのんびりと歩いて居た世界が見慣れた銀髪を見つける。運良く振り返った男は、瞬いて。
「なんだかこうやってはなすのも久しぶりだよね」
「そうだな。お前のところがなかなか開かなかったのもありそうだが」
「まあね。未曾有の大災害ってやつだよ」
「ほう。あんなに元気だと女王は言ってた気がするが」
「あんなの建前だよ。ひとの……俺達の暮らす世界で、大雨が降り続けてね。妖精たちも飛べなくて、暫くは籠ってたのさ」
「ふーん……」
 助けを求められなかった、ということはイレギュラーズの力は不必要だったのだろう。あるいは彼らの力を借りてでも、どうしようもなかったか。
 やれやれと肩を竦める。
「まあ、ひとの世界から求めたって良かったんだけど。俺達の物語は妖精が主役だからね」
 と、カナタ。あくまで我々は登場人物に過ぎないのだとせせら笑った。
「お前たちだって生きてるんだから、お前たちの人生にとっちゃ各々が主役だろ」
「そうだけどね。運命ってやつは皮肉なんだ」
「やれやれ、胃薬が足りないな」
「本当にね!」
 困ったように笑うカナタの顔は晴れやかで。だからどうしようもないのだと、口のなかを転がしていた飴を噛み砕く。
 胸中に僅かに残った蟠りのように消え失せることのない飴の欠片。
「で、今日はどうして此処に居るんだ」
「ま、たまには仕事から逃げ出してやろうかなって」
 こいつはなかなかいい性格をして居る。
 苦労人枠とはいえ、魔法剣士であるカナタはそれなりに腕も頭もたつ切れ者。
 そんな彼が仕事を沢山抱えているのはもはや日常茶飯事。文句はこねようとも、大人しくしたがっていたはずなのに。
「珍しいこともあるもんだな。逃げるなよ」
「仕事を真っ先にサボりそうな世界には言われたくないけど?」
「否定はしないな。よし黙っててやろう。その代わり甘味を奢れ」
「やれやれ、困ったなあ」
 とは言いつつも手招き、物語の扉を開く。
 境界案内人としての力を与えられたカナタが繋いだのは、彼の世界ではなくなんてことない物語のひとつ。
「へえ、こんな世界があったのか」
「そうだね。お茶が飲めるんだよ、それも美味しい」
「ほう、それはいいな。今度開いてくれ」
「機会があったらね!」
 慣れた素振りで注文をする。此処のおすすめはパンケーキなのだと知っている辺り、きっと職権乱用で何度か此処に来ているのだろう。
「どうよ」
「うまい。特に、他人の金で食う甘味はな」
「仕方ないなあ……」
 コーヒーとガトーショコラを頼んだカナタ。遠慮なく追加で注文をする世界。
 異世界の果てでちょっと一息。そんな幕間。
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