PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

窓際族生存記

関連キャラクター:回言 世界

世界はくるりと裏返る。或いは、異界の図書館…。
●異界図書館
 ずらりと並んだ本棚に、びっしり詰まった本の群れ。
 窓のない空間は、しかし不思議と一切の暗さを感じない。
「一体全体、ここは何処で“何”なんだ?」
 本棚に手を伸ばし回言 世界はそう言った。
 棚から黒い表紙の本を取り出して、ぱらぱらとページを捲る。
「表紙は皮か? タイトルも文字も知らない言語で書かれている」
 既に10を超える本棚を眺め歩いた。
 手に取った本は20冊を超えるだろうか。
 サイズも厚さもバラバラだが、共通してどの本も同じ言語で書かれたものだ。
 ただし、世界の知識には存在しない未知の言語だ。
 本の装丁から判断するに、どれも執筆されてから一世紀も経っていないだろう。つまり、遥か昔に失われてしまったどこかの国の古い文字で書かれた本……などということは無いはずだ。
「行けども行けども、本棚ばかり……そもそも俺はどこからここに入って来たんだったか?」
 もう少し警戒するべきだった。
 なんて、後悔しても手遅れだ。
 後で悔いると書いて“後悔”なのである。

 時刻は暫く巻き戻る。
 もっとも、世界の記憶があやふやなため正確にどれだけ前のことかは不明である。
 依頼で出向いたラサの辺境。
 古い部族が立ち上げたという遺跡をベースにした集落だ。
 依頼達成後、ふと集落を歩いていると寂れた小さな書店を見つけた。店員らしき者の姿は見えないが、ちょっと中を覗いてみれば辺境に見合わぬほどに多くの本が揃っていた。
 興味を惹かれ、世界は書店に立ち入って……本棚に視線を走らせながら、店の奥へと進んで行った。
 そして、気づけば世界は無限に続く本棚の間に立っていたのである。
 どれだけの時間、本を眺めていたのだろうか。
 外から見れば小さな書店だったはずだが、歩いた距離は明らかに長すぎる気がする。
 “引きずり込まれた”
 脳裏をよぎったその言葉。
世界は無意識のうちに「それだ」と思った。

 それから暫く。
 時間の経過を感じることは出来なかったが、少なくともさらに数十の本棚の前を通過し、100を超える書籍を手に取った。
 当然のように、どの本も読むことは出来ない。
 しかし、それだけの本を手に取るうちに、ある種の法則のようなものを見出すことが出来ていた。
 初めに世界が手に取った本と、つい今しがた手にした本では、紙の質や装丁に大きな違いがあったのだ。
 どうやら、奥へと進むほどに書かれた時代が新しくなっている。
「例えば……このまま先へ進み続けて、時代が“今”に追いついたとして」
 そこには何があるのだろう。
 そんな風な思考のもと、世界は再び歩き始める。

 そうして、世界はついに本棚の海を抜ける。
 そこにあったのは、ランプの置かれた木製のデスクだ。デスクの上には、辞書のようなサイズの本が置かれている。
 それから、紙の束とペンが数本。
「……“世界はくるりと裏返る”?」
 不思議と表紙に書かれた文字を判読できた。
 世界はこの本を知っている。
 きっと、読んだことがある。
 そして、そのことをすっかり忘れていたのだ。
「どういう仕組みか分からねぇけど……1冊でも読めるなら手の打ちようはある」
 席に腰かけ、ポケットの中から取り出した飴を口に咥えた。
 本を開いて、ペンを手に取る。
 きっと自分はこの場所から帰還できる。不思議とそんな確信があった。
 そして、元の場所に……ラサ辺境の集落に帰還したら、ここであった出来事の一切を忘れてしまうのだろう。
「さて、と。俺はこの本を読んで、どういった行動を取るんだろうな?」
 きっと何度も同じことを繰り返した。
 その度に元の世界へ帰還し、そして、またいつかこの奇妙な図書館へとやって来るのだろう。
 それはきっと、自分が未だに“回答”に辿り着いていないからだ。
 いつか、いずれ“回答”に辿り着けたとして……。
「その時、俺はどうなっちまうんだろうな?」
 なんて。
 咥えた飴を噛み砕き、世界は本の解読を開始するのであった。
執筆:病み月

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