PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

事故だぞ、本当なんだ、信じてくれ。やましいことはなかったんだ

関連キャラクター:紫電・弍式・アレンツァー

温泉、湯煙、不可抗力
 涼しい風が柔らかく頬を撫でる、行楽シーズンの秋。
 この日の依頼を終えて紫電とイーリンはその疲れを癒すべく、近隣住民おすすめの湯治場に足を運んでいた。
 かなり激しい戦闘を伴うものだったからか、2人の顔には明らかな疲れが見えている。
「こうも疲れていると、少しくらいお湯に浸かって身体をほぐしたいところね」
「同感だ。一刻も早く汗を流したい」
 教えられた山道を登っていくこと十数分後、ついに目的の場所が見えてくる。
 立ち昇る白い湯煙はいざ2人の疲れをとってやろうといわんばかりに、源泉の香りを纏い風に乗ってなびいてくる。
 この場を教えてくれた現地住民によると、ここは混浴らしい。しかし、幸いなことに今は人の姿は見当たらない。つまり、2人だけの貸切状態である。
 早速、湯治場の簡易更衣室で、汗ばんだ服を脱いでいく。
 イーリンがトップスを脱いだ時、小柄でありながらも女性らしい身体つきが紫電の目に映る。
 ──きれいな形の胸、かなり華奢でありながらもそのくびれに一枚薄く綺麗に乗った脂肪、そして肩から指先にかけての曲線美。
(あぁ……綺麗、だな……)
 紫電はそんなことをぼんやりと思いながら、思わず服を脱いでいくイーリンをじっと眺めてしまう。他意などというものはもちろんないのだが、それでも、綺麗な「友人」を「女性」として認識してしまう、そんな自分がいる。
「……どうしたの? 私の体に何かついているかしら?」
 そのようなことなどを知る由もないからか、イーリンは不思議そうに紫電に問いかける。
 気が付けばタオルという薄い布一枚で身体のラインが露わになった彼女を見て、紫電は珍しくうろたえた。
「あぁ、いや……疲れててボーっとしてしまった。ほら、汗もかいて気持ち悪いだろう、先に入って来たらどうだ?」
「そうね。そうさせてもらうわ」
 先に湯煙の中に向かっていくイーリンを見送ると、紫電は高鳴ってしまった胸を落ち着けるべく、大きく息を吸い込んだ。
(危なかった……オレにはちゃんと守りたい大切な人がいるのに、少しドキドキしてしまった。イーリンはあくまでも友人だ。邪なことは考えるまい)
 ふーっ、と息を吐きだし、紫電も温泉の方へ向かっていく。

 1時間ほど経った頃。日も暮れて来たこともあり、そろそろ湯から上がろうということになった。
 貸切状態だったということもあり、2人はゆっくりすることができたようだ。
 ……否、ゆっくりすることができた故、「リラックスしすぎ」てしまったのかもしれない。
 湯気により湿った足元のタイルは、言うまでもなく滑りやすくなっている。まして、疲れが溜まった風呂上りともあれば、多少なりとも足元はふらつくのも道理だ。
「「あっ!」」
 ツルンッ、と音を立てて、2人とも綺麗に転んでしまう。
 変な体制で紫電が受け身を撮ろうとしたからか、紫電が下に、イーリンがその上に覆い被さるような形で床に倒れた。
 温泉成分のおかげか、はたまた元の肌が綺麗だからだろうか、2人分の火照った肌が密着しその滑らかさが際立って感じられ、ふわりといい香りが漂う。
「あ……いや、その……」
 自分の一糸纏わぬ姿の自分の上に、小柄な女性がひとり。
 顔が赤らんでいるのは、決して湯上りの火照りだけが原因ではない。
「大丈夫?」
 イーリンが紫電に掛けた言葉は、単純に転んで下敷きになっていることへの心配。
 ……なのだが、顔が近いせいか、イーリンの吐息が紫電の耳朶を撫でたことで思わず紫電の身体が小さくピクリと身体が跳ねる。
 イーリンのその身体に触れたいという思いを、恋人がいるという枷で以て押さえつけ、ゆっくりと身体を起こした。
「すまない……イーリン、怪我はないか?」
 こっちは大丈夫、と何もなかったかのようにイーリンはゆっくりと立ち上がる。
「せっかく温まったのに、身体が冷えては風邪をひいてしまうわ。ひとまず、更衣室に戻るわよ」
 ゆっくりと、更衣室に歩いていくイーリンの後ろを、紫電はついていく。
 ──恋人のものとはまた違った質感の肌質と香りを、無意識のうちに反芻しながら。
執筆:水野弥生

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