幕間
ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。
マリ屋の愉快な仲間たち
マリ屋の愉快な仲間たち
VDMランド内に存在する串カツ屋『マリ屋』
そこで働く愉快な仲間達による楽しい日常。
関連キャラクター:マリア・レイシス
- 戦の時。或いは、日が落ちれば稼ぎ時…。
- ●戦の時
ぱちぱちと油が跳ねる。
鉄帝。
帝都スチールグラード郊外にあるVDMランド。その中にある串カツ“マリ屋”の厨房で、マリア・レイシスは額に汗して跳ねる油を見つめていた。
右手に串カツ、そして左手にも串カツ。
マリ屋の目玉料理である串カツ。それを美味く揚げるコツは、油の温度とタイミングに他ならない。
故に、油へ串カツを付けるという工程に、油断の1つもあってはならない。
静寂。
「……マリィ」
ゴクリ、とヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤの喉が鳴る。
左手にガラスのコップ、右手には清酒のボトル。
酒精を喉へと流し込んだのだ。
時刻は夕時。
マリ屋の開店を十数分後に控えた時間に、ヴァレーリヤは酒を飲むのだ。
この後に続く戦に備え、気付けの酒を胃の腑へ流し込むのだ。
それが彼女の日常で……この程度の酒精で酔い潰れるヴァレーリヤではない。
「お酒の代金、お給金から引いておきますね」
「……正純」
小金井・正純が帳簿に数字を書き記す。
ゴクリ、と再びヴァレーリヤの喉が鳴る。
「もうボトル代を引いておきます」
小金井・正純に容赦はない。
淡々と、店の損失を帳簿へと記すだけである。
「……今!」
じゅわ、と。
マリアの手が閃いて、串に刺さったカツが油へと沈む。
テーブルを引いて、椅子を下ろし、すずなとタイムは肩を並べてぐるりと店を見渡した。
床には埃の1つさえも落ちていない。
テーブルには、たった1滴の水も付着していない。
マリアが油を揚げる音と、ヴァレーリヤが酒を飲む音、そして正純が帳簿に数字を記す音だけが店内に響き渡っていた。
開店の時はすぐそこにまで迫っている。
数分の余裕を残して、回転の準備は完了だ。
「うん、準備はOK! 今日も忙しくなりそうだね」
店の外へ視線を向けてタイムは言った。
その手には暖簾が握られている。
「えぇ、本当に……既にお客さんが並んでいますね。皆さん、お腹を空かせているんですね」
そう言って、すずなは手にした雑巾と箒を指定の場所へと仕舞っていく。
それから、すずなは視線を厨房へと移した。
「準備はいいですか?」
「はっ、誰に言っているのだわ? 当然……塩も天つゆも完璧よ。後は大根をおろしちゃえば、まさにパーフェクトって奴なのだわ」
天ぷらの担当はコルネリア=フライフォーゲルだ。
銀の髪を頭巾で纏め、コルネリアは口角をあげる。
彼女の眼前には、パットにずらりと並べられた天ぷらの山。
1つ、鶏天を口へと入れて、ヴァレーリヤが厨房を出た。
タイムの手から暖簾を受け取り、旗を掲げるようにそれを頭上へ上げる。
「さぁ、いざ開店ですわ!」
西の空に日が沈む。
扉を開ければ、腹を空かせた人の列。
串カツ“マリ屋”の開店となった。
- 執筆:病み月