PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

宮だより

関連キャラクター:寒櫻院・史之

踊らされる大走査線

「カンちゃん、いよいよこの季節がやって来たね……」
「そうだね、しーちゃん。この季節が……」

 恋の季節グラオ・クローネ。転じてーー『境界案内人』ロベリア・カーネイジが暴走する季節!

 寒櫻院夫婦の成り立ちを考えれば、あの時は必要な事であったものの、毎年の暴走ぶりを考えると被害を抑えなければそのうち取返しのつかない事態も起こりえる。
 そういう訳で二人はグラオ・クローネの数日前、グラクロ気分で浮足立つ境界図書館へ探りを入れに来たのだった。
 やばい物には早々に蓋をするに限る。兵は神速を貴ぶのだ。目立たないようにお揃いの黒いローブを身に纏い、二人は図書館のロビーを歩く。

「なんだか潜入捜査みたいでドキドキするね! あんパンと牛乳も持ってくればよかったかな」
「ごきげんだね、カンちゃん……。まぁローレットからの依頼じゃないし、遊び半分ではあるけれど……」
「だっていつも僕達、ロベリアさんからの不意打ちで驚く事が多かったじゃない。今日は先手を取れるから意外な一面が見れたりするかなって」
「そうでもないわよ? 私はいつでも自分を取り繕ったりしないもの」
「本人がそう思っていても、第三者から見たら違う場合もーー…いや待って、ロベリアさん!?」

 二人の会話へナチュラルに混ざってきたロベリア。驚きながらも先に気付いたのは史之の方だった。

「……ッ!」

 ロベリアが怪しげな呪文を放つ。咄嗟に睦月を庇うように動く史之。色とりどりの閃光がはじけ飛び、彼の身体を包み込んでーー

「しーちゃん!? しーちゃーーん!!」


「だいぶ遅い時間になったが、領地に戻らなくていいのか?」
「今夜はどうせ二人とも帰って来ないっしょ。だってもうじきグラオ・クローネ……あーもう、あーしだって恋の季節満喫したい!」
「おい、飲みすぎだぞ」
「いいじゃん、どうせジュースだし! 酔わないし! ちっひーは固いなぁ~!」

 日向にバシバシと背中を叩かれ、千尋は飲みかけていたジュースを噴き出しそうになった。ここは赤斗と蒼矢が経営しているカフェ&バー。気晴らしに遊びに来た日向と千尋を、赤斗は快く迎えたのだった。

「俺は恋愛沙汰には疎いが、まぁ……そういうのは巡り合わせがある。慌てず時期を待ってりゃ、きっといい人が見つかるさ」
「あーね。でも、その手のアドバイスを聞き続けてもう何年目よって話しでさー。もういっそ、ちっひーと付き合っちゃおっかな」
「どうしてそこで私が巻き込まれる事になるんだ。そんなに魅力的な殿方を探したいなら、武力をつけて道場破りくらいしてみたらどうだ」
「わーん、ちっひーの猪武者ぁ~!」

 的外れな恋愛のアドバイスに日向が叫んだのとほぼ同時、入口のドアベルがカランカランと鳴り響く。二人が音の方へ思わず振り向くと、そこに立っていたのはーー

「うそっ、しのにい……だよね? うわ~、ちっちゃ…!」
「治るまで知り合いの少ない場所に避難してようと思ってたのに、どうして二人がここにいるんだ……」

 テンション高めにパシャパシャとこちらをaphoneのカメラで撮影してくる日向に、史之は細い眉をハの字に寄せた。
 一方で千尋の方はというと、驚きのあまり口をパクパクさせている。無理もない。二人の目の前に現れた史之の姿は、どう見ても五歳児なのだから。
 後から史之を追いかけるように店に現れた睦月は、日向と千尋が店にいる事に驚きつつも、事の次第を話してくれた。

「実は、しーちゃんがロベリアさんの呪いから僕を庇ってくれて……五歳児ぐらいの姿にちぢんじゃったの。しばらくしたら治るって呪いをかけた本人は言ってたけど……」
「当人のロベリアは一緒に来てねぇのかァ?」
「グラオ・クローネの悪戯が成功したから満足して帰るって」
「面倒な事この上ねぇなぁオイ」

 赤斗は溜息混じりに入口の方へ向かうと、店の看板が『Close』になるようひっくり返した。今夜はこのまま、店を貸し切りにしてくれるらしい。

「落ち着くまで好きに使ってくれ。どうせ今夜は日向と千尋の貸し切り状態だったからなァ」
「ありがとうございます、赤斗さん。……しーちゃん、いつ治りそう?」
「それが分かってたら。こんなに困ってないって。……うーん…」

 うとうと。子供にはもうおねむの時間だ。うつらうつらと舟をこぎはじめた史之を、千尋が抱き上げソファーへ寝かせる。

「わが身を盾にしたという事は、史之なりに努めを果たしたという事だな」
「ちひろ、ありがと……」
「……っ」

(史之がこんなに無防備な姿を見せた事などあっただろうか。ここは気がたるんでると普段なら叱責するところだが……こうも可愛いとやりにくい!)
「ちっひー、なにニヤけてんの~?」
「にっ、ニヤけてなどいない!」
「わわっ。しー! しのにい目が覚めちゃうよ」

 日向がコートを掛け布団代わりにかけてやると、史之は隣に座る睦月の手をぎゅうと掴んだ。

「カンちゃん、寝るまでそばにいて」
「!! ……うん。寝た後もずっと、一緒にいるよ。だから安心しておやすみ」

 掴んだ手を優しく握り返すと、落ち着いたのか史之はすーっと夢の中へ落ちていった。愛らしい寝顔を見守ってから、三人は顔を見合わせる。

「で、どうすんの? このままだと本家様動けないじゃん」
「僕はここでしーちゃんと寝るから、二人は島に帰りなよ」
「いや、この状態で敵に襲われたら史之とて守りきれまい。一晩の警護も鍛錬のうちだ」

 ひそひそと声を落として会話して、そうして時間は過ぎていき――


「本当に、皆いい顔で寝てるねぇ」
 バータイムと入れ替わりでカフェの営業準備に来た蒼矢は、四人の寝顔をこっそり覗いて頬を密かに緩ませた。
 史之はロベリアが言っていた通り、大人の姿に元通り。仲良し四人をもう少しだけ寝かせてあげようと、蒼矢はそのまま厨房の方へとゆっくり踵を返したのだった。

「グラオ・クローネの大切な贈り物……四人の場合は"強い絆"なのかもね」
執筆:芳董

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