PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

宮だより

関連キャラクター:寒櫻院・史之

うさうさ夏休み

 千尋は激怒した。必ずかの我儘すぎる境界案内人を除かねばならぬと決意した。
 千尋には萌えがわからぬ。千尋は、武家の末裔である。文武両道、夏宮の者として名乗れるよう誇り高い生き方を追求し続けてきた。けれどもセクシー路線には人一倍、敏感だった――

「なぜ私がバニースーツを着なければいけないんだ、蒼矢殿ぉ――!!」
「おっ。やっぱりちっひー似合ってるじゃん」

 スタッフ控室の扉を勢いよく開け放ち、心の思うがままに叫びをぶつける千尋。同じくバニースーツを身に纏い、ひとあし先に着替えを済ませてバーカウンターの席でだらだらしていた日向はいつもの調子で声をかけた。

「春宮、貴様からも何か言ってやれ! 蒼矢殿の店舗を貸し切っているとはいえ、こっ、こここんな破廉恥な格好で歩き回るなんてっ」
「えー、でも襟飾りとかあるぶん、水着より露出度はさがってるっしょ? ちっひーのはスカート付いてるし。黒ニーハイにガーターベルトまでしっかり付いてるのはビックリしたけど」
「そこはっ……恥ずかしかったが、夏宮たるもの用意された服はご厚意としてパーツの欠けなく完璧に着こなすべきだと……」
「あははっ! なにそれウケる! ちっひー真面目すぎっしょ!」

『要塞スカート』のおかげで絶対にパンチラしない安心安全デザインなのは、コスチュームを用意した赤斗なりの配慮のようだ。
――だとしても! どうして!! バニーなんか!!!
 ぐるぐると怒りと混乱うずまく千尋の頭を、横から飛んできた睦月の言葉が容赦なく打ちのめす。

「やっぱりこういうのって恥ずかしい、よね……巻き込んじゃってごめん、ちひろ」
「どうしてそこで本家が謝っ――もしや、このバニー騒ぎの当事者は蒼矢殿ではないと!?」
「半分僕で、半分睦月かなぁ」

 バーカウンターで皆にお茶を振舞う準備をしながら、蒼矢がのんびりと事のいきさつを説明しはじめる。

『混沌のリゾート地には可愛いバニーガールと格好いいバニーボーイが溢れてるって?
 いいなぁ、僕も史之のバニーボーイ姿とか見てみたいなぁ!』
『ちょっと待ってください蒼矢さん、話が飛躍しすぎてません? なんでしーちゃんがそんな服を着るって決めつけて……』
『だって史之は海洋に忠誠を誓ってるんでしょ? 依頼で必要になったら着るんじゃないかって』
『やだぁ! しーちゃんの初バニーは僕が見たいの!!』
『それなら皆でバニーデビューしちゃおうよ、お披露目会して見慣れちゃえば竜宮城でのお仕事になっても恥ずかしくないし!』

「という訳で皆でサクッとなってみたんだけど、史之バニーの感想は?」
「死にた…………いや、夏はこれぐらい涼しい服装でも悪くないかな」

 店の隅で「いっそ殺してくれ」ってツラのまま虚空を見上げていた史之が、涙目になりかけた睦月に気づいて途中で軌道修正する。

「嘘だー! どう見てもしーちゃん『いっそ殺してくれ』って顔に書いてあるじゃない」
「そんな事ない」
「目を見てちゃんと話してよしーちゃん! 本当は……っくしゅ!」

 くしゃみした睦月の肩に、ふわりとカーディガンがかかる。史之がかけてくれたのだと気付いて睦月が目を見開くと、そんな驚いた顔をするなとばかりに史之は人差し指で頬を掻いた。

「自分が着てる事は忘れて、カンちゃんだけ見つめてたら、普通に眼福だから。でも、風邪ひきそうなら無理しないでね」
「……っ! しーちゃん、大好き!!」

 唐突にバニーな二人がイチャイチャしはじめたのを、わーって微笑ましく眺める日向と蒼矢。千尋は千尋で、両手で顔を覆い隠し――仲睦まじい二人の姿を、指の隙間から見つめたまま視線を外せずにいた。

「しのにいも本家様も相変わらずリア充爆発だよねー。なんか妬けちゃうなー! こういう時は甘いのやけ食いっしょ!」
「あはは。コーヒーの準備が出来たから、テーブル席に集まっててね」
「……そういえば、誘われた当初は皆で蒼矢殿が作ったパフェの新作を食べる約束だったな」

 海洋の夏を想わせるブルーキュラソーの青いゼリーと、砂浜を模したキャラメル胡桃。季節のフルーツも間に混ぜて断層の作られたパフェの上には、ちんまり小さいチョコのウサギがのっている。混沌へ足を踏み入れられない境界案内人の自由な発想で作り出されたパフェのお供は、フルーティーな香りと後味の引き立つ苦み強めのホットコーヒー。
 空調の冷気にそよそよウサ耳揺らして、皆で楽しむ真夏のお茶会!

「史之、いい気分転換になったかい?」
「やっぱり、神郷さん達が気をつかってくれたんですね。境界世界の新しい依頼だと聞いてたから、皆が集まってておかしいと思った」
「大黒柱だからって、頑張りすぎてないか心配だっただけだよ。元気な顔が見れてよかった」
「今度、蒼矢さんの仕事も引き受けますよ。これで借りが出来たから」
「本当かい? いやぁ助かるよ。もうすぐ夏のイベントが始まるっていうのに、新刊のキサムツ本の仕上げが間に合いそうになくてねぇ」
「それは却下で」
執筆:芳董

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