PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

Ghost family

https://rev1.reversion.jp/guild/1335

鬱蒼たる森に在る、二階建ての古びた洋館。
絵画の瞳は此方を見つめ、ラップ音は鳴り響き、笑い声が木霊する。
そこはまさしくゴーストハウス!!

これは館の主クウハと住民達による
ある日のほんのささやかなお話。

Twitter紹介文+FL記録。
https://rev1.reversion.jp/guild/1335/thread/20148


関連キャラクター:クウハ

下半身の無い女。或いは、キミの名は…。
●あぁ、忌まわしき夏の太陽
 鬱蒼とした森の奥深く。
 古びた洋館の門前で、空を睨む女が1人。
 白い顔に、長い黒髪、地面についた両腕で体を支える彼女には下半身が存在しない。
 どろり、と。
 とめどなく流れる赤い血と、地面に零れた臓物を引き摺りながら彼女はここまで来たのだろう。彼女が通った道は……洋館の玄関から門までには、赤黒い軌跡が残っている。
「うぅぅぅう……忌々しい夏の太陽め。今年も懲りずに、燦々と!」
 空へ向けて女が吠えた。
 拍子にごぼりと、夥しい量の血と胃液を吐き出す。
 口元から胸までを真っ赤に濡らして、血走った目で空を睨む女の形相は、苦痛と怨恨に醜く歪んでいるではないか。
「おーおォ。一体全体、何をそんなに苛立ってんだァ? 不景気な面してよォ」
 そんな彼女にかけられる、どこか軽薄な男の声。
 じろり、と女は背後を見やった。
 そこにいたのは、猫を模したパーカーを纏う紫髪の男性だ。にやけた顔で女を見下ろし、わずかに肩を竦めてみせる。
「不景気じゃない面した奴がこの洋館に1人でもいるわけ? 誰も彼も死人ばかりよ?」
「まァ、そりゃそうだが。楽しくやろうぜェ? どうせ誰でも死んだら同じだ。生きてるころの身分や肩書き、汗水たらして稼いだ金も何もかも、一切合切、死後には持ち越せねぇんだからよォ」
 そう言って紫髪の男は、くっくと肩を揺らして笑う。
「っていうかよォ、何だってそんなに太陽が憎いんだァ? オマエは別に日の当たる場所には出られない類のゴーストじゃなかったはずだろう?」
 下半身のない女へと、訝し気な視線を向けてクウハは首をこてんと傾げる。
 女は舌打ちを零すと、身体を支える右手を伸ばして日の当たる地面を数度叩いた。
「熱いのよ! 死ぬほど! 死んでるけど! 私には下半身がないの! 仔猫を救けに馬車の前に飛び出して、退き潰されて地面とごっちゃになったのよ!」
 クウハの問いが、彼女の怒りの琴線に触れた。
 血の泡を吹きながら、女は怒声を張り上げる。ついでとばかりに、腹からはみ出す臓物が血飛沫を撒き散らしながら、右へ左へ跳ねていた。
「お……おォ? 悪ィ……つまり、どういうことだ?」
「つまり! 私はこの両手で! か弱いこの両腕で体を引き摺って歩き回らなきゃならないの! だっていうのに、夏の太陽が地面を燦々と焼くんだもの! まるで鉄板みたいになった地面の上を、手をついて歩けるもんですか!」
 夏の日差しはまさに凶器だ。
 数時間も、太陽光に炙られた地面となれば、触れれば火傷してしまうほどに高温となっているだろう。
 そんな地面に手を触れれば、あっという間に手の平を火傷するはずだ。
 足で体を支えるのなら、地面から手を離してしまえばいい。
 だが、彼女にはそれが出来ない。
「あァ? そりゃ大変だなァ。地面に近い方が暑いとも言うし、オマエにゃ酷な季節だよなァ?」
「そうね! その通り! でもね! どういうわけか、私は夏の間こそ不思議と“出番”が来たって気がするわけ! 何でよ?」
「しらねェけど……まぁ、誰かが呼んでるんじゃねェの?」
 怒り狂う女を置いて、クウハはするりと空へ浮く。
 彼女のようなゴーストを、果たして世間で何と呼ぶのだっただろうか。
「確かァ……テケテケとかって名前だったかァ?」
 なんて。
 太陽へ向け呪詛の限りを吐き出す女を見下ろして、クウハはポツリと呟いた。
執筆:病み月

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