PandoraPartyProject

幕間

Ghost family

https://rev1.reversion.jp/guild/1335

鬱蒼たる森に在る、二階建ての古びた洋館。
絵画の瞳は此方を見つめ、ラップ音は鳴り響き、笑い声が木霊する。
そこはまさしくゴーストハウス!!

これは館の主クウハと住民達による
ある日のほんのささやかなお話。

Twitter紹介文+FL記録。
https://rev1.reversion.jp/guild/1335/thread/20148


関連キャラクター:クウハ

首なし騎士リチャード卿の災難
 おや、我が主。オマエさんほどの立派な騎士がどうしてそんなに泥だらけなのか、ですと?
 我輩のような落武者に立派だなどと仰って下さるのは我が主だけですぞ! そうなのです主……酷い目に遭いましたとも。首から見える光景を頼りにの中を森を手探りで探すなど、これっきりにしたいものですな!
 何せ首が下草の中に埋もれていたもので、タダでさえどこかも判らぬ森の中だというのに周囲の様子も見えやしない。しかも野ネズミどもが我輩の首を見つけて、喜び勇んで辺りを駆け回るものだから、体の立てる鎧の音も掻き消されてしまったのですぞ!
 とはいえ幸い、首がどの辺りに落ちたのかは判っておりましたからな! この辺りだろうと当たりをつけて彷徨き回ったところ、先程、無事にこうして首を発見した次第。今は鎧に付着した泥や樹液を拭う布を探していたところですな。

 ――何、どうして首がそんなところにあったのか、ですとな?
 それが、お恥ずかしい……先程妻と喧嘩した際に、二階の窓から放り投げられてしまったもので!
 いやいや、解っております我が主! 反省して妻の機嫌を取ることも忘れてはおりませんとも!
 とはいえ妻も幽霊、偏屈ですからな。そう簡単に許して貰えるかどうか……え、奥さんをそう悪し様に言うのが悪い? いやはやごもっとも……我輩も心を入れ替えねばなりませんな。
執筆:るう
泣き女ケリーの心配
 ねえオーナー、是非とも本当のことを仰ってくださいな。私……皆様にご迷惑をお掛けしてないかしら!
 ほら、私の泣き声が聞いた人の魂を抜いてしまうのはオーナーもご存知でしょう? とはいえここにいらっしゃる方はみんなもう死んでらっしゃるし、幾ら泣き叫んだところでその点は安心できるのだけれど……それはそれとして皆様にうるさいって思われてないか心配だわ!
 ……いえ、私だってヒステリックに喚き立てたいつもりはないんですのよ。実際、今はこうして毎日オーナーや皆様とお喋りできるわけですから、楽しくて楽しくて、泣く機会なんてありませんもの。
 でもね、オーナー。私……どうやら昼間、寝言で大声で泣いてしまっているんですって!

 昨日なんてあまりにも旦那がうるさいうるさい言うものだから、思わず大喧嘩してしまいましたの! いくら何でもあの言い方はないでしょうって、今も思い出すだけでむかっ腹が立ちはしますけれど……私だって、旦那の言い分が解らないわけでもないんですのよ。だって幽霊なら誰しも、安眠を妨害されて祟ってやろうかって思うことくらいはあるものですもの。
 だから……もし、私が気付いていないうちに皆様を苛立たせてしまっているようなら、遠慮なくそう仰って? 私だってここは心地の良い棲家ですもの、ご近所さんとは仲良くやってゆきたいわ。

 ……あら。このお屋敷は壁が分厚いから声くらいなら大丈夫? ならよかったわ……え、それより昨日のポルターガイスト合戦の時に物が壁にぶつかる音のほうがよっぽど響いてましたって?
 まあお恥ずかしい……! もう二度とあんな喧嘩やりませんから、どうかお目溢しくださいな!
執筆:るう
絵画の少女:名称不明のため便宜上レディ
 お屋敷の二階、長めの廊下にその絵画はかかっている。金髪に青い瞳、可愛らしい十歳程度の少女の絵だ。ニヤッとしたいつもの顔でクウハは絵画に向かって話しかける。
「よォ、今日も外見て浸ってんのか、レディ?」
 声に反応して外を見ていた少女の視線が瞬きクウハを見た。続いて少女の口が動く。絵画なのにだ。
「だっていつまでたってもここから動けないんだもの。お屋敷に来たときは知らない景色だから楽しかったけど。ねぇお兄ちゃん、早く私を移動させてよ」
「さァてどうすっかね。あちらもこちらももう一杯だからなァ」
「もう! 意地悪。じゃあせめてお話に付き合ってよね」
 そういうと少女は話はじめた。

 私は昔々大金持ちのお嬢様だったのよ。たくさんのお菓子とたくさんのぬいぐるみとかわいいお洋服とお父様とお母様といっぱいの使用人と暮らしてたんだから。すごいでしょ?
 でもね、私が病気になってから家の中がめちゃくちゃになったの。どれだけお金を出したってどんな優秀なお医者様だって私の病気は治せなかったわ。その時のことはあんまり記憶にないんだけど、胸が苦しくてお父様もお母様もいつも泣いてたのだけは覚えている。
 苦いお薬も痛い注射も嫌だったなぁ。
 そのうちにお医者様が来なくなって、代わりにお父様とお母様が喧嘩する声ばっかり耳に入ってきたわ。私のせいなのかな、って思ったのだけどお二人とも違うっていうの。不思議でしょう?
 ある日、お母様が私をベッドから抱き上げてお部屋から連れ出そうとして、お父様に見つかって、そのあとからお母様を見なくなったの。代わりに画家が私のお部屋に入るようになったわ。
 健康になるおまじないだからって画家は何枚でも私の絵を描くの。
 何枚も、何枚も、何枚も何枚も何枚も何枚も。ぬいぐるみを覆っても、お洋服を覆っても、もっともっと描くの。お部屋が私の絵で埋まっても描いたわ。

 そして私は死んだの。当り前よね、絵を描いて治るわけないんだから。でもお父様は納得しなかった。それで画家の描いた最高傑作の私の絵に私を封じたってわけ。
 酷い話だと思わない? 病気になってからほとんど外に出られなくて、死んでやっと外をまたみられるって思ったら絵に封じられたのよ?
 しかも飾られたのはお父様の書斎、窓にはカーテンがかかってて景色が変わることもない。唯一良かったのは姿を見なくなってたお母様がそこにいたことぐらいだけど、お母様はお父様を呪うばかりで別に話してくれるわけでもなかったわ。
 で、結局お父様が死んでお家のもの全部売り出されるまでそこにいたってわけ。

「……可哀そうでしょう? ほら、哀れに思ったら別の景色のところに移動させてよ」
「はいはい、そのうちなァ」
 ケッケッケと笑いながら去りつつクウハは手を一振り。カタンと音がして、後ろから少女の怒った声がした。
「ちょっと、絵をずらさないでよ! 直すの大変なんだからぁ!!!」
執筆:心音マリ
平々凡々な幽霊の、
 むかしむかし、この村に一人の女の子がいました。
 女の子は村のみんなにいじめられ、ついには崖から落ちて死んでしまいました。
 しかしその後、女の子をいじめていた人たちも次々と、何かに操られているかのように崖から落ちていってしまいました。
 今でもあの崖の下、その子は村人たちを憎み続け、其処を通る者は行方知らずになってしまうようです……。

 俺の生まれ育った村に伝わる昔話なんだ。子供のころはよく聞かされたもんだよ。
 だから俺も、幽霊は皆強い恨みを抱いてるんだと思って、怖がってた。ま、昔の話さ。

 ……。せっかくだから、俺の身の上話でも聞いてくか?
 独りで黄昏れてると湿っぽい気分になるもんでね。
 俺は何の変哲もない農村の生まれで、何の変哲もない農民として生きるはずだった。でも、娯楽もなければ人もいない山奥で、"そこそこ"の人生を全うするなんて我慢ならなかった。もっと凄い存在になりたかったんだ。
 勢いのまま突っ走って、大きな街に上京した。だけど俺に出来ることは結局限られてて、適当な仕事で日銭を稼ぐ毎日だった。
 そしてある日、酔っ払った同僚の介抱をしている最中、階段から足を滑らせて死んだ。
 それから当てもなくぶらついてたときに、この屋敷を見つけたんだっけな。

 バカみたいな人生だったろ?
 こんなんじゃ誰かを恨むことだって出来やしない。あの同僚も俺の死を悼んでくれたしな。
 幽霊は皆強い恨みを抱いてるんだと思ってた。実際のところ、俺に残ったのは行き場のない未練だけだった。
 どうして俺は生きて――死んでるんだろうな。
 この屋敷は個性的なヤツばかりで、なおさらそう思っちまうよ。

 ……。
 そうかな。そんなこと言ってもらえたの、初めてだ。生きてるときを含めても。
 ハハ。ありがとな。嬉しいよ。本当……本当に。

 ……。
 ハハハ! 本気で言ってるのか?
 でも、お前が言うなら説得力がある気がするよ。
 そうだな。死んだ後だからって関係ないのかもしれない。
 いつか、俺たちでデカいこと成し遂げようぜ。――絶対な!
執筆:
未練を忘れてしまったご婦人
 あら、あらあら? ここってどこかしら?
 まあオーナーさん、ちょうどいいところに。
 ねえ、ここってどこかしら? ……二階の空き部屋?
 まあ私ったらまた間違えてしまったのね。
 ええ、ええ。自分の部屋ですとも、『まだ』覚えてますわ。
 一階の玄関フロア入ってすぐのお部屋!
 ああ、スッキリしたわ。ありがとう、オーナーさん。
 もう夜遅いから夜更かししちゃあ、ダメよ? おやすみなさい。

「おう、お休みぃ! ……あの婆さん、毎日おんなじとこをうろちょろしてて面白れーよな」 
執筆:桜蝶 京嵐
Found you.
 僕は、かくれんぼで『絶対に見つからない必勝法』を識っていた。
 種を明かせば何て事も無いけれど。唯、何の仔の目線よりも高い所に隠れるだけだ。
 人とは、基本的には自分の目線真っ直ぐ、或いは下のものを探し易い。存外高い所は見ていないし盲点に為るから勝つには打って付け――机の下だとかクローゼットの中、ゴミ箱に隠れるのは素人さ!
 是からかくれんぼに挑む人には是非とも――喩えば屋外なら樹の上だとか、室内なら外を覗けるアイブロウ、腰を降ろせさえすれば良いから兎に角高い所へ隠れてみると良い。自分の事を見付けられず躍起になって鬼が探し回って名前を喚ぶのは気持ちが良くて、それでどっぷり日が暮れる頃に皆んなの前に現れる時の最高の気分は病みつきになってしまう程。

 『Let's play hide and seek. Are you ready?
 
 『 Everybody……HIDE!』

 『One……Two……Three……Four……Five……』

 『Six……Seven……Eight……Nin……』

 『Ten……』

 『Ready or not. Here I come!』

 「Fine, Come on!」

 何時の事だっただろう、もう覚えてない位ずっと前だった気がする。『幽霊屋敷』と実しやかに囁かれていた古びた洋館。大人達は口を揃えて近寄ってはいけない、と口を酸っぱくして云っていた――でもそんなもので子供の膨らんだ好奇心は止まらない――其れ処か行ってはならぬと云われれば最早『行け』と同然の意味を持つ。
 胸の高まりは最高潮で、鼓動が早まる儘に大人の目を盗んで肝試しがてら向かった其処で。

 ――僕は死んだんだと思う。寒い、雪の日。其れが僕の命日。そして所謂『幽霊』になって、未だに此処に居る。

 七色の大理石で作られた嵌木細工の床を走り回る友達を見下ろして居たぼくはと云えば、退屈過ぎて欠伸が出たものだから睡ってしまって。其れが直接の死因に成ったみたい。
 僕が先に怖がって尻尾を巻いて逃げ帰ったのだと決め付けた皆んなは日暮れに館を出て、其れで帰って来てない事が発覚し村からは捜索隊が組まれた様だけど。今更降りて行くのも格好悪いし、怒られるのも厭だし、手も足も軀もきぃんと冷えていて、聲を出す事も出来なくて――遠退き行く意識の中で、父さんと母さんの必死で、悲しそうな聴いた氣がした――……。

 二階の更に柱を攀じ登り中央の大きなドームの――天窓から差し込む柔らかでとろりと甘いクリィム色が漆喰の壁にグラデーションを作る、まるで天国に近い場所。其処に僕の骨は未だに誰にも見つけられずに在ったりするのだ。

 『Yes, I am…… Yes, I am……』

「うわッ、何だよ骸骨じゃんよ!? クウハさんったらクッソ驚いたぜェ!」
「え?」
「何でオマエさん、こんなトコ居んの?」
「かくれんぼ」
「ハーン? そんじゃアレだわ」

    みぃつけた
 『――Found you!!』

 其れからの僕は、館の中を自由に歩ける様に為った。此処には驚く程色んな幽霊が居て、今の目標としては唯一僕を見つける事が出来た此処の主にかくれんぼで勝ちたいって事なのだけど、如何云う訳かクウハさんは絶対に僕を見つけてくれるから、嬉しいんだけど悔しい。

 『Not just yet…… Not just yet……』

 『Are you ready?』

 『Yes, I am!!』
執筆:しらね葵
無邪気で人懐こい赤ん坊
「だーう!」
 んー? なーんだお前、また屋敷ン中冒険してたのかァ?
 大人と一緒にいろって前に言っただろォ?
 まぁ……危ないもクソもネェと思うけどよォ……。
「だ!」
 ん? なんだよ、遊んでほしいのか? しょうがねぇなァ。まぁ暇つぶしには丁度いいか。
 いやぁガキにその昔えらい目に遭わされたもんだからよォ……こいつが来たときは身構えたもんだが。
 ここまで小せぇとそんな悪さもしねぇからなァ。
 抱き上げても大人しいし可愛いもんだぜいだだだだだだだだァ!
 髪を引っ張んなァ!! えっ、赤ん坊ってこんなに力強かったっけいだだだだだだだだだ!!!!!!
「あーい!!」
 くっそゴキゲンな顔しやがってよォ!!
 人が痛がってるの見て笑うたァ、良い性格してんじゃねェかいだだだだだだだだだ!!!!!!!
執筆:
 あまり自分のことを覚えていないから、誰かの生活を、ずっと、ずっとなぞっている。残されているものからその人の生活や生き方を想像して、そういう風に振る舞って、何もない自分の穴を、埋めている。

 ふらふらとやってきた新しい屋敷には、自分以外にも幽霊がたくさんいるらしかった。だけど元の持ち主のものも残っていたから、その人の生き方をなぞることはできた。
 今ここにいるひとたちの真似はできない。そんなことをしたら、自分はただのコピーだと言いふらしてしまうことになる。だからここにいない誰かの真似をするしかなくて、そのひとの写し鏡になれるように、自分の穴を埋めて、同時に広げ続けた。

「オマエさん、名前は何ていうんだィ?」

 話しかけてきたのは、耳のついたフードを被った男だった。彼もまた、「幽霊」だと言う。

 元々の名前なんてものは忘れてしまった。ここにいた貴族の名前が欲しいくらいだ。

「忘れちまったのかァ」

 彼はうんと首をひねり、それから軽やかな音を発した。貴族の名前でも、今までの名前でもない、新しい名前だった。

「僕の名前にしていいのかい?」
「呼ぼうにも名前がないと困るからなァ。気に入ったら使ってくれればいいさァ」

 猫耳がくしゃりと笑い、僕に任せるとでも言うように去っていった。


 それから僕の名前は***になった。誰かをなぞることをやめたわけじゃないけれど、名前のある誰かになれたのだから、あまりその必要を感じなくなった。

「よォ、***」
「おはよう、クウハ」

 穴は、塞がった。だからもう、僕は十分なのだ。いつものにんまりとした笑みを浮かべる彼に、僕はそっと微笑んだ。
執筆:椿叶
矛盾する双子
 僕はエルト。僕はトルエ。
 僕らは二人で一人、一人で二人。ずーっとそうやって生きてきたんだ。死んだってそれは変わらないし、死んだからもう僕らは変わらない。
 だから一人の僕らを見分けられるわけがないんだ。そのはずだったんだよ。
 でも新しい住処には強敵がいるんだ。ほら、来た。トコトコ歩く猫耳フードが生意気なこの住処の主、今度こそやって見せるんだ。
 ばぁーって、二人で彼を囲ってグルグル回る。ぴたって止まって、さぁどっちがどっち?
「なァんだ、またお前らか」
 最初にどっちがどっちか目視させてない、しかもぐるぐる入れ替わった、いつも立ち位置は適当だからそれで見抜かれるはずもない。なのに、なのに……。
「右がトルエ、左がエルトだろ」
 チラッて僕らを見ただけで言い当てられる。悔しいから『はずれ!』って言っても慌てることなく「嘘だね」って見抜かれた。
 なんでわかるんだよって僕は怒る、僕らは怒る。誰にも見分けられないはずなのに、一人だけ見抜かれるのがどうしても許せない。

 はるか昔は、生きていたころは、見分けてほしかった気がする。
 僕と僕は別々の人間で、別々の考えがあるんだって知ってほしかった気がする。
 それは結局叶うことなく、僕らは全く同じ日に死んで全く同じ幽霊になって全く見分けがつかなくなってしまったのだが。僕らだってお互いを眺めているとエルトなのかトルエなのかわからなくなるのに。
 初めて会って自己紹介した後、猫耳フードの主は僕らを一回も間違えたことがない。
 僕らを見分けてほしい、それが未練だったならもうとっくに成仏できるのだと思うが、僕らには違う"成仏しない目的"ができた。
 いつかここの主にギャフンと言わせる。見分けがつかないようにしてクイズを外させるんだ。

「お前ら、双子っていう割にわかりやすいからな!」
 どこがわかりやすいんだよ、って聞いてもコイツは教えてくれない。ただおかしそうにクツクツ笑うだけ。それがまた悔しい。だって僕らにもわからない僕らを知ってるみたいじゃないか。
 次は絶対外させてやるんだからな! なんて捨て台詞を吐いて僕らはまた外させるための作戦を練るのだ。
「館の主としちゃあ、住人を覚えるのは当たり前だからなァ。悔しそうにされるもの気分がいいもんだぜィ」
 飛んでいく僕らの耳にそんな声が聞こえた。でも聞こえたのはここまでで、そのあとにまだ呟いてるのだけは知らなかったんだ。

「それに、当てたら心底嬉しそうな顔するんだもんな。外すほうが可哀そうだろ」
執筆:心音マリ
下半身の無い女。或いは、キミの名は…。
●あぁ、忌まわしき夏の太陽
 鬱蒼とした森の奥深く。
 古びた洋館の門前で、空を睨む女が1人。
 白い顔に、長い黒髪、地面についた両腕で体を支える彼女には下半身が存在しない。
 どろり、と。
 とめどなく流れる赤い血と、地面に零れた臓物を引き摺りながら彼女はここまで来たのだろう。彼女が通った道は……洋館の玄関から門までには、赤黒い軌跡が残っている。
「うぅぅぅう……忌々しい夏の太陽め。今年も懲りずに、燦々と!」
 空へ向けて女が吠えた。
 拍子にごぼりと、夥しい量の血と胃液を吐き出す。
 口元から胸までを真っ赤に濡らして、血走った目で空を睨む女の形相は、苦痛と怨恨に醜く歪んでいるではないか。
「おーおォ。一体全体、何をそんなに苛立ってんだァ? 不景気な面してよォ」
 そんな彼女にかけられる、どこか軽薄な男の声。
 じろり、と女は背後を見やった。
 そこにいたのは、猫を模したパーカーを纏う紫髪の男性だ。にやけた顔で女を見下ろし、わずかに肩を竦めてみせる。
「不景気じゃない面した奴がこの洋館に1人でもいるわけ? 誰も彼も死人ばかりよ?」
「まァ、そりゃそうだが。楽しくやろうぜェ? どうせ誰でも死んだら同じだ。生きてるころの身分や肩書き、汗水たらして稼いだ金も何もかも、一切合切、死後には持ち越せねぇんだからよォ」
 そう言って紫髪の男は、くっくと肩を揺らして笑う。
「っていうかよォ、何だってそんなに太陽が憎いんだァ? オマエは別に日の当たる場所には出られない類のゴーストじゃなかったはずだろう?」
 下半身のない女へと、訝し気な視線を向けてクウハは首をこてんと傾げる。
 女は舌打ちを零すと、身体を支える右手を伸ばして日の当たる地面を数度叩いた。
「熱いのよ! 死ぬほど! 死んでるけど! 私には下半身がないの! 仔猫を救けに馬車の前に飛び出して、退き潰されて地面とごっちゃになったのよ!」
 クウハの問いが、彼女の怒りの琴線に触れた。
 血の泡を吹きながら、女は怒声を張り上げる。ついでとばかりに、腹からはみ出す臓物が血飛沫を撒き散らしながら、右へ左へ跳ねていた。
「お……おォ? 悪ィ……つまり、どういうことだ?」
「つまり! 私はこの両手で! か弱いこの両腕で体を引き摺って歩き回らなきゃならないの! だっていうのに、夏の太陽が地面を燦々と焼くんだもの! まるで鉄板みたいになった地面の上を、手をついて歩けるもんですか!」
 夏の日差しはまさに凶器だ。
 数時間も、太陽光に炙られた地面となれば、触れれば火傷してしまうほどに高温となっているだろう。
 そんな地面に手を触れれば、あっという間に手の平を火傷するはずだ。
 足で体を支えるのなら、地面から手を離してしまえばいい。
 だが、彼女にはそれが出来ない。
「あァ? そりゃ大変だなァ。地面に近い方が暑いとも言うし、オマエにゃ酷な季節だよなァ?」
「そうね! その通り! でもね! どういうわけか、私は夏の間こそ不思議と“出番”が来たって気がするわけ! 何でよ?」
「しらねェけど……まぁ、誰かが呼んでるんじゃねェの?」
 怒り狂う女を置いて、クウハはするりと空へ浮く。
 彼女のようなゴーストを、果たして世間で何と呼ぶのだっただろうか。
「確かァ……テケテケとかって名前だったかァ?」
 なんて。
 太陽へ向け呪詛の限りを吐き出す女を見下ろして、クウハはポツリと呟いた。
執筆:病み月
幽霊犬タマ
 自分は犬です。種類はわかりません、昔の主は雑種だと笑っていました。
 昔の主はとっても大事にしてくれていました。真っ赤な首輪に『タマ』と一生懸命書いてくれました。それが自分の名前だと言ってくれました。
 でも今は主はいません。何があったか忘れてしまいました。ただ必死に森の中を駆け回っていたことは覚えています。そして屋敷にたどり着いたんです。

 ワンワンと自分は吠えました。古びていて誰もいなさそうな屋敷だったけど、お腹が空いていたんです。しばらく吠えていたら変わった服装の男性が出てきました。
「なんかうるせぇと思ったら、犬っころが何か用か?」
 ワンワン、ワンワン。
 自分は必死に訴えました。人間に言葉が通じないのは知っていましたが、それでも空腹と疲労で今にも倒れそうでしたから。
 でも意外なことに出てきた彼はぱちくりと目を瞬いてからニンマリと笑ったんです。まるで言葉が通じてるみたいに、聞いた言葉があまりにおかしいというように。
「お腹が空いてるって? でももうお前死んでるじゃねーか」
 そういわれて初めて気づきました。先ほどまでの空腹も疲労もどこへやら、そんなものがあるはずなかったんです。落とした視線、見える足はぼんやりと透けています。彼の言うように自分はもう死んでいたのです。
 さて、あっさりと自覚したのは良いのですがどうしたらいいのかわかりません。この魂はどこへ行けというのでしょう。
「行くとこないんだったらここにいるか? 子供たちも喜ぶだろうしな」
 自分が困っている様子を見かねたのでしょう、彼がそう言ってくれました。なので自分は快諾することにしました。彼はこの屋敷の主だそう、ならば彼を新たな主として仕えようと思ったのです。
 ワン、と了承の気持ちを込めて吠えれば彼はふっと笑いました。人間の言葉ではないはずなのに不思議といいたいことが伝わるのは自分が死んでいるからでしょうか?
「んじゃ、決まりだな。ところでオマエさん、名前はーっと」
 名前を求められていたので自分は首を誇らしげに上げて首輪を見せることにしました。そこには自分の名前が書いてありますから。
「タマ、ってこれがお前の名前か?」
 ワン。
「そうか……」
 ちゃんと伝わったはずなのに彼……ではなかった、新しい主は複雑そうな顔をしていました。
「まぁいいか、ほら、中はいるぞタマ」
 ワンワン。
 自分は喜んで尻尾を振り、新しい主について屋敷に住むことになったのでした。
 ただ屋敷に入る前に新しい主の言っていた「タマって猫に付ける名前じゃなかったか……?」とはどういう意味だったのでしょう。聞いてみてもいまだに教えてもらえていないのです。
執筆:心音マリ

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