PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

Ghost family

https://rev1.reversion.jp/guild/1335

鬱蒼たる森に在る、二階建ての古びた洋館。
絵画の瞳は此方を見つめ、ラップ音は鳴り響き、笑い声が木霊する。
そこはまさしくゴーストハウス!!

これは館の主クウハと住民達による
ある日のほんのささやかなお話。

Twitter紹介文+FL記録。
https://rev1.reversion.jp/guild/1335/thread/20148


関連キャラクター:クウハ

2つの紫
 カサカサカサ。

 聞こえる音は、下草の擦れる音程度。野生の馬故に、蹄などなく。いや、それが理由ではないのだろう。馬ならざる夢馬であるがこそ、彼女の歩みに音は伴わない。もし聞こえたならば、それは彼女が意図して聞かせる悪夢の足音なのかもしれない。
 とはいえこの森の住人にとってみれば、その足音がしようがしまいが、大したことはないだろう。なぜならば、この森に住まうのは彼女の同胞ばかりだから。けれど、今彼女の行く先を塞ぐように足を上げ樹の幹を足蹴にする男は、正確にはこの森の住人ではなく。

「この野郎。最近ちっと景気よすぎんじゃネェか。オイ。」

 森の奥。彼女の縄張りで待ち構えていたクウハは、帰ってきた同じ毛色の同胞の通り道を足で塞ぎ。棘のある声をかける。その様子に、フンと鼻を鳴らすように息を吐くのは、夢馬プエルト。

『牝馬に向かって野郎などと、目が腐ったか、悪霊。眠れていないのではないか?』

 彼女はいつかのように沈黙を守ることはなく、その艶やかな声を響かせ返す。

「悪ィがおかげさんで最近はぐっすりだヨ。おまえさんプレゼンツの胸糞悪ィ夢のお供もなくな。そっちこそずいぶんいい毛並みしてんじゃネェか? 食い過ぎは腹壊すゼ。」

 たしかに、今のクウハは血色がいい。だがそれは目の前のプエルトも同じこと。クウハのいうように、今のプエルトは力に満ちている。まるで食後のように。

『貴様や貴様の連れが興味本位に森を侵すからであろう。こちらとて、質の悪い夢に食傷気味よ。ほんに貴様らは皆、自ら望んで現実と悪夢の垣根を壊し逝く。愚かなものよ。』

 変わらぬ尊大な物言いに、クウハも息を吐く。これだから悪霊同士の会話は着地点が見えない。

「おまえさんにはおまえさんの性分があんのは分かってる。こっちが踏み入ったのもアル。だが、ちっとやりすぎだゼ。あんまし過ぎると……」

 それ以上の言葉は口にせず、見据える瞳の力で語る。平時飄々と見せるクウハには珍しく漏れ出す禍々しいものは、仮にも彼が友人とする面々にまで目の前の夢馬の力が及んだだろう故。けれど対峙するプエルトは、面白そうに鼻を鳴らす。

『痴れ者め。貴様、漏れ出すモノまで”混ざっている”ではないか。魔力では渇きを満たせず、さらに血も受けたか。だが、それで貴様は満たされたか?』

 プエルトの指摘に、グッっとパーカーの中の拳に力が入る。足をおろし、漏れ出るソレを抑えるクウハ。張り詰めた空気が幾分和らぐ。

『……貴様は我に責を問うが、貴様らが見た夢、その全て我の所業と言い切れるか?』

 静かに響くその声には、変わらず熱はこもらない。

『その夢が、ほんに夢のままであると、真に語れるか?』

 熱を帯びず、冷たいままに。クウハの胸の内へと、無遠慮に踏み込み、淀みのように溜まっていく。

『誰それの飼い猫となり、与えられる魔力に酔いしれ、いつ切れるとも知れぬ色違いの細い糸の縁に絆され。在り方を損なった貴様は、弱い。故に今、蝕まれているのだろう? 血が恋しいか? 水に還りたいか?』

 主以外によって刻まれた印が熱を持ち、渇望を覚える。
 右手の鱗が疼き、聞こえないはずのあの日の歌が思い出される。

『もう幾日かで、血の病は形となって姿を現わそう。』

 ――――ゆめ、在り方を見失うな、悪霊。

 2つの紫の間に、それ以上交わす言葉はなく。光の届かぬ森にあるのは、静寂だけ。
執筆:ユキ

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