PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

百合草瑠々の日常

それは、百合草瑠々だった証。


関連キャラクター:百合草 瑠々

檸檬。或いは、喉の奥で弾ける爆弾…。
●死ぬほど暑い黄色い季節
 じりじりと、夏の日差しが肌を焼く。
 頬を伝った汗が1滴、顎へと流れて地面に落ちた。
「死ぬほど暑ぃ」
「ははぁ? この程度で死にやしないだろ? キミがどんなにそれを望んだって、世界がそれを許しちゃくれない。あはは、まるで呪いか何かのようだね」
 どんよりと淀んだ瞳で百合草 瑠々が零した言葉は、武器商人によって即座に否定された。
 舌打ちを1つ零した瑠々は、隣に置かれた籠へと暗い眼差しを向ける。
「檸檬……何だってこんな暑い日に、ウチはこんなところにいるんだ?」
 籠の中身は檸檬であった。
 絵具をチューブから捻りだした直後みたいな単純な色の紡錘形。それを1つだけ手に取って、瑠々は「ふん」とつまらなそうに鼻を鳴らす。
 そんな彼女の様子を眺め、武器商人はさも愉し気に口元をにんまりと歪めて見せる。
 ところは幻想。
 ジェイル・エヴァーグリーンの果樹園。
 ある夏の暑い日のことだ。
 武器商人が、実った黄色い紡錘形をもぎ取ると、ぱっとトパーズ色の香りが辺りに散った。
「なに、気紛れだよ。ここ最近のキミときたら、得体の知れない不吉な塊に終始心を抑えつけられているみたいな顔をしていたじゃないか。それはちょっといけない」
 得体の知れない不吉に敢えて名を付けるなら、それは嫌悪か焦燥か。とにもかくにも、碌なものではないことばかりは確かであった。
「まぁ、収獲の時期にはまだ早いけど、この季節の檸檬も美味しいものだよ」
 瑞々しい果実を、ぽいっと瑠々へ放って渡す。
 それをまるで“爆弾”か何かでも見るような目でじぃと見つめて……綺麗な歯でもって、ほんのひと口、かりりと噛んだ。
「酸っぱい」
「だろうね。でも、少しだけ目が正常にもどったように見える」
「……まぁ、悪くは無ぇな」
 喉の奥に、いつも感じていた痛み。
 嘔吐を繰り返したことによる慢性的な嵐のようなそれさえも、数滴ばかりのレモンの果汁が洗い流した。
 ほんの僅かな時間だろうが、この瞬間に瑠々はいつぶりか痛みの無い、無垢な刻を過ごしたのだ。
 つまらなそうな顔をして、しかしどことなく面映ゆいような雰囲気のままに、瑠々は檸檬んをもうひと齧り。
 酸味に顔を顰めるものの、檸檬の酸っぱさが胸の奥で爆弾のように弾けては、幾らかの爽快感を与えてくれる。
「美味しいだろう? 次回以降のお買い求めはどうぞサヨナキドリまでご連絡ください」
「……はちみつに漬けたのはあるか?」
 なんて、そう言って瑠々は檸檬を投げ返す。
 涼しく光る檸檬が1つ。
 弧を描いて、武器商人の手に収まる。
「はちみつ漬けか。商品開発部に打診しておくよ」
 食べ掛けの檸檬をポケットに仕舞い、武器商人は収獲に戻った。
 そんな様子を、瑠々はじぃと眺めている。
 やがて……ポツリ、と。
「ウチが死んだら、写真の前に置いた花の影にでもそいつを備えておいてくれ」
 零すような呟きは、果たして耳に届いたか。
 それともそれは、単なる独り言だったのか。
執筆:病み月

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