PandoraPartyProject

幕間

悪行の記憶・善行家の今

イロン=マ=イデンは毎晩しっかり眠り、そしてときたま夢を視る。
浮かぶのは、助けた人々の顔、声、そして……忘れたと思っていた過去の記憶もある。


関連キャラクター:イロン=マ=イデン

街の人の声
「イロン=マ=イデン……ああ、あの子のことかな? 金髪の可愛らしい女の子」
 とある街で様々な品を並べる商人は名を聞いて、該当する人物のことを思い出す。
 彼女には以前助けてもらった経緯がある様子の商人は、当時のことをつらつらと語り始めた。
 と言ってもごく簡単な出来事が起きた程度。並べた商品の数が足りないと思っていた所に、イロンが犯人を見つけて連れてきたそうで。

「あの子は、そうだね……善い行いをした、と言い切って僕に向けて笑顔を浮かべていたよ。それが正しいんだと信じていてね」
「あの時はびっくりしたよ。僕の知らないところで事が終わってたし」
「うん、あの時は本当に助かったんだ! あの商品がなかったら、売上がなかったんだよねぇ」
 その日の売上はイロンが連れてきた犯人が盗んだ商品が人々の目に止まったことで一気に上がったそうだ。
 この時の感謝は、今でも忘れられないと商人は呟く。

「ただ……後から考えるとね、あの子は無理をしてないかなって思ったりもしたんだ」
「なんだろう、なんていうのかな。全ての悪を絶やすなら、なんでもする……みたいな?」
「ちょっと、思い詰めてないかなって心配になったかなぁ」
 心配そうな表情を浮かべた商人。あまり無理はしないでほしいな、と一言告げてから彼は再び商売を再開した。
ある男の提言
「あの子だろ。よく覚えているよ」
 男は当時を振り返るように目を宙に向けた。
「俺はな、ずっと真面目に生きてきたんだ。誰の迷惑にもならないよう自分を抑えて、いつも頭を下げてばっかりいた」
 男の眉間にしわが寄った。恐らく、カツアゲされかけた時のことを思い出したのだろう。
「俺は誰よりも真面目に生きてきたんだ。なのにあいつらは俺から金をむしり取ろうとしやがった。そんな時に助けてくれたのが、イロン=マ=イデンだよ」
 男の顔に歓喜の表情が浮かんだ。高揚しているのか、身を乗り出して起きたことを話し始める。
「あの子はあいつらの言葉に何も耳をかさず、ぶちのめしてくれたんだ。そりゃあ、スッキリしたよ。正義ってやつは存在するんだって思ったね」
 更に男は止まることなく思いをまくしたてる。
「この世の中、狂ってやがる。正直者が損をして、ずるした人間が上に行くように出来てるんだ。俺はそれが許せなかった。だから、あの子を見た時、俺は震えたんだ。悪をただ悪とだけあの子は見てたんだ。他のなんにも縛られないで、ただ悪を成敗するためだけに動いていた。まるで俺の怒りが代弁されたようだったよ。どんな理由があろうと、悪には相応の罰があるべきなんだ。あの子にはきっとそれができる!」
 男の叫びが部屋に響いた。
執筆:カイ異
正義無き日々
 怯え竦む子供の顔が、魔法人形の金色の瞳に映り込む。
 主人は乱暴に子供を掴むと、魔法人形の大きく開かれた背中、その空洞に押し込んだ。内部から暴れ叩かれる反響音が煩わしくて、それでも主人が囁いた命令は、人形の頭に明瞭に響いた。
 仰せのままに――。
 内部の機構が稼働し、犠牲者の血液を搾り取るべく動き出す。与えられた使命に則って、効率的に、素早く。
 貯血槽のメーターが上がると共に、叩かれる感覚は薄れてゆく。これでもう、万が一にも内部の機器が破損する可能性は排除された。
 ――その死が人形に齎したものは、一人分の血液と、今後も命令を遂行し続けられる安堵にも似た感情だった。
執筆:

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