幕間
ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。
ユメウツツ
ユメウツツ
関連キャラクター:トキノエ
- 狐の恩返し
- 「あーっ! クソ、最悪……!」
バシャバシャとトキノエは地面に溜まった水を跳ねさせながらアパートの前まで辿り着いた。ゲリラ豪雨の被害に遭ったトキノエは、自分の思う通りにならない天気に悪態をつきながら何とはなしにアパートの前の金網に目をやる。
「あ?」
黒いもふもふとした何かが金網に足を取られているのが見えた。きゅうきゅうと悲しそうな声を上げ、じたばたともがき苦しんでいる。トキノエはため息をつきながら部屋へと戻って行った。
「おら、動くな」
傘を差しながら、なるべく穏やかな声でそのもふもふに声をかける。人の言葉が分かるのか、自分よりも大きな生き物に怯えているのか、鳴くのも抵抗するのも忘れてもふもふはぴたりと止まる。楽でいいな。等と思いながら持ってきたペンチで金網を切っていく。
「ほら、もう引っ掛かるなよ」
大人しかったので脚を触らせてもらったが特に怪我などはないようで安心した。軽く頭を撫でてからトキノエは部屋へと戻っていく。その後ろ姿を黒いもふもふはずっと見ていた。
次の日、黒いもふもふは白いもふもふを引き連れトキノエの部屋の前へと現れた。白いもふもふは警戒心マックスだったが。
もふもふ、もとい、獣たちは次の日もその次の日もやって来てトキノエの日々の癒しとなっていた。
そんな日々の中、トキノエの隣の部屋に引っ越してくる者がいた。
「こんにちは。隣に引っ越してきた天黒といいます。同居人がいるのだけど彼は人見知りで……これから仲良くしてくださいね」
隣人はにっこりとトキノエに向かって笑った。その笑顔はなんだか黒いもふもふを連想させる笑顔だった。 - 執筆:紫獄