PandoraPartyProject

幕間

ユメウツツ

関連キャラクター:トキノエ

魂が求める
 魂の番。人ならざる者たちの間で密かに囁かれる噂話。
「魂が求め、今までの全てを投げ出し繋がりたいと思う番が現れる事があるらしい」
 ごく少数ではある物の実体験があるらしく皆、自分の番は今か今かと待っている。
永い時を過ごす妖にとって魂の番は最高の娯楽という認識になっていた。
 一方その頃、『天黒』は悩んでいた。狐の妖である彼もまた魂の番に憧れている一匹なのだが……。
「魂の番が二人居る場合はどうしたらいいのだ……!」
 一匹は、猫又の『白萩』。もう一匹は鴆の『トキノエ』。二匹は友人らしく酒の席での話し合いの結果半分こする気満々らしい。
だが天黒は踏ん切りがつかないでいた。
(魂の番、であればきっと手放される事はないと思うのだが……)
 それでも、怖い。過去の記憶が二匹の愛を享受する事を拒む。魂が求めている番であるにもかかわらず。
「まぁだ、ウダウダ考えてんのかい?」
「っ!白萩……」
 顔を隠していた片方の手を優しく取り払われて手の甲にキスをされる。
「お前に何があったのか分かんないけどよ、黙って俺らに愛されてた方がいいと思うわね?」
「トキノエ……」
 もう片方の手をトキノエに取られ、こちらも同じようにキスをされる。
「いいか?アンタは目ェ付けられたんだ。もう逃げられねぇし逃がす気もねぇんだよ」
「過去の事なんて思い出せないほど愛してやるからさ」
 甘い言葉が天黒の耳を脳を犯していく。逃れたいという気持ちも溶かされていく。
(ああ……。騙され裏切られるなら彼らがいい)
 甘い言葉で誑かして手酷く裏切られるのは彼らで最後にしたい。身も心も魂さえも、全てを捧げろと本能が訴える。けれど……
「裏切ったらどこまでも追いかけて呪殺ぞ」
 甘い甘い声でけれども瞳には鋭利な光を宿らせて天黒は言う。その言葉に二匹の妖は幸せそうに笑った。
執筆:紫獄
slave
 闇オークションの会場に来ていた白萩は退屈そうに欠伸を漏らす。何もかも面白くない。このまま次の商品を待たずに帰るか。そう思っていた時だった。
「なあ、白萩」
 楽しげな声に視線をそちらにずらせば、舞台を指さされる。乞われるがまま視線を再びずらせば、衝撃。
「あァ…いいな」
 白萩の顔に獰猛な笑みが浮かぶ。その言葉にはトキノエも同感だったようで楽しそうにしている。
「幾ら出す?」
「手に入るならいくらでも」
 2人の視線は舞台にいる1人の奴隷に注がれたまま、言葉を交わす。みすぼらしい格好ではあるが、艶を失っていない黒髪も愁いを帯びていない瞳も惹かれるものがある。
 それはほかの連中も同じようで、今までの熱気とはまた違った熱気に包まれていた。ふと、2人の視線と舞台にいる奴隷の視線が交差した時、トキノエと白萩に向けてか奴隷は微笑んだ。奴隷という立場にそぐわないその笑みは、会場の雰囲気を変えるには十分すぎた、
 誰もかれもがその奴隷を手に入れようと全力を尽くす。けれどもきっと、白萩とトキノエには叶わないだろう。彼らは欲しいと思ったモノは全て手に入れてきたのだから。
『『あの奴隷が欲しい』』
 2人の目的は一致した。ならば奪い喰らうまで。
執筆:紫獄
お好きなお相手もしくは自分自身で想像してどうぞ
「どうした?……疲れたのか。そなたは頑張り屋だからなあ。何?不真面目だと?ふふ、そなたは天邪鬼だな。
そら今日は特別に可愛がってやろう。疲れている時は甘えるべきと聞いた。何をしてほしい?夕餉を作ろうか。それとも、風呂で背を流すか?何でも言うといい。今だけ特別にそなたの願いを全て叶えてやろう。ん?膝枕?ああお安い御用だとも…。いつも頑張ってて偉い偉い。今日はゆっくり休むと良いぞ。我がついているからな。安心してお眠り。今日だけと言わずずっと、甘えててくれても良いのだぞ?」
執筆:紫獄
ああ、選択肢間違えた
 ビチャリ。いやな音を立てて液体が体から零れ落ちていく。止めようにも液体なので押さえている手からぼたぼたと零れ落ちていく。
 何でとどうして。頭の中にはその言葉ばかりが浮かんでは消えていく。先ほどまで彼は笑みを浮かべながら自分の紡ぐ言葉に耳を傾けていたはずだ。それなのに急に自分は『刺された』のだ。ふらふらと自分の言う事を聞かない視線を彼に何とか合わせる。笑っていた。口元に優雅な笑みを浮かべ笑っていた。けれども、ああ、けれども。その瞳の中には業火しか浮かんでいなかった。
「お前が彼らの何を知っているのか。彼らの名はお前如きが口にしていいものではない。それは全部全部、我だけのものだ。我以外が知る事も見る事も許さない」
 お前で最後だと嬉しそうに語る彼に俺は逃げようともがく。けれども大分血を流し過ぎていて体を動かす事すら難しい。彼の逆鱗が何かわかってしまったが、その時にはもう遅かった。男はこうやって彼らに関わってきたすべての人を始末して回っていたのだろう。
「これで彼らを知る者は今のところ誰もいなくなった。まあ、彼らも我と似たような種だ。そういう事もあろうと納得してくれるだろう。彼らもう我の物だ。自由にしては良いが我は少々心が狭い。一時の逢瀬は許せるがそれ以降も彼らを覚えている者がいるのは耐えられぬ。ああ、耐えられるのとも。だから排除するのだ。いっそこの世に我と彼らしかいなくなるその日まで」
 歌うように己の狂気を吐き出す彼の言葉を最後に俺の意識は途切れた。
執筆:紫獄
狐の恩返し
「あーっ! クソ、最悪……!」
 バシャバシャとトキノエは地面に溜まった水を跳ねさせながらアパートの前まで辿り着いた。ゲリラ豪雨の被害に遭ったトキノエは、自分の思う通りにならない天気に悪態をつきながら何とはなしにアパートの前の金網に目をやる。
「あ?」
 黒いもふもふとした何かが金網に足を取られているのが見えた。きゅうきゅうと悲しそうな声を上げ、じたばたともがき苦しんでいる。トキノエはため息をつきながら部屋へと戻って行った。


「おら、動くな」
 傘を差しながら、なるべく穏やかな声でそのもふもふに声をかける。人の言葉が分かるのか、自分よりも大きな生き物に怯えているのか、鳴くのも抵抗するのも忘れてもふもふはぴたりと止まる。楽でいいな。等と思いながら持ってきたペンチで金網を切っていく。
「ほら、もう引っ掛かるなよ」
 大人しかったので脚を触らせてもらったが特に怪我などはないようで安心した。軽く頭を撫でてからトキノエは部屋へと戻っていく。その後ろ姿を黒いもふもふはずっと見ていた。

 次の日、黒いもふもふは白いもふもふを引き連れトキノエの部屋の前へと現れた。白いもふもふは警戒心マックスだったが。
もふもふ、もとい、獣たちは次の日もその次の日もやって来てトキノエの日々の癒しとなっていた。


 そんな日々の中、トキノエの隣の部屋に引っ越してくる者がいた。
「こんにちは。隣に引っ越してきた天黒といいます。同居人がいるのだけど彼は人見知りで……これから仲良くしてくださいね」
 隣人はにっこりとトキノエに向かって笑った。その笑顔はなんだか黒いもふもふを連想させる笑顔だった。
執筆:紫獄

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