PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

観測日記(テアの場合)

関連キャラクター:テア・アナスタシス

通りがかりの小さな幸せ
「ふう……今日も色々と買いすぎました……」
 両手にたっぷりの購入品が入った手提げ袋をぶら下げて街の中を歩くテア。
 今日は買い出しをするぞ! と意気込んだのは良いが、あれもない、これもない、と切れていた消耗品をぽんぽん籠に入れたものだから、持ってきていた手提げ袋では足りないほどに色々購入していた。
 出来れば休まずに家まで持ち帰っていきたい。そう考えてテアは両腕の重さに耐えながらも歩いたのだが、住宅街を抜ける間際の坂道を登りきってギブアップ。
「む、無理ですよぅ……」
 どさりと荷物を地面に下ろし、両腕の筋肉をほぐしながら休憩をとったテア。
 よくこんなにたくさん買ってしまったものだと己の過ちを嘆いていたが、必要な物しか買ってないのだからこれは必要経費! と気持ちを切り替えることでもう一度頑張ろうという気持ちになれた。
 もう少し休憩したら歩こう。そう思っていた矢先のこと。
「……おや?」
 風が1つ吹くと、砂糖の甘い香りが辺りをふんわりと包み込む。先程までは何も感じ取れなかったのだが、どうやら風が何処からか運んできてくれたようだ。
 甘い香りがテアの鼻の奥を通り抜けて脳に信号を届けると、途端にテアのお腹がキュゥ……と鳴る。甘いものが欲しい、と身体が訴えを上げているのがよくわかった。
「むむむ……ちょ、ちょっと見に行くだけなのです……!」
 せっかく届けてくれた美味しそうなものの気配。それを逃す理由など何処にもないと、テアは下ろしていた荷物を再び持ち上げて甘い香りのもとを探し出した。

「いらっしゃいませー」
「わわぁ……」
 風が届けてくれた香りのもとはテアが休んでいた地点から少し離れた喫茶店からのもの。今はできたてのプリンやスイーツ提供しているようで、カラメルの香ばしい香り等も店の外へと溢れていた。
 思わぬ名店を見つけてしまって少し嬉しくなったテアは、ここらで小休憩をすることに。せっかく来店したのだから、このお店にあるスイーツを食べてみたいという欲が脳を支配する。
 ショーウィンドウに並んでいる美味しそうなスイーツをいくつか選んでテーブル席へと足を運ぶテア。選んだチーズケーキ、プリン、暖かな紅茶をテーブルに下ろすと、いただきます、と小さく述べてからまずはチーズケーキを一口。
「……っ……! お、美味しい……!」
 ふわっとしたきめの細かい生地が舌の上で甘さと酸味を広げ、一口噛めばしゅわっと溶けていく。酸味を出すために入れられた刻んだレモンがプチッと弾けると、途端にテアの口の中にレモンの香りが広がってまた別の味を醸し出していた。
 一口、また一口と食べ進めるうちに、チーズケーキを完食。たった一切れだというのにテアの満足度はとても高く、これはプリンにも期待できるだろうと紅茶を一口飲んだ。
「はわ……紅茶も凄く美味しいのです……!」
 口の中を少しさっぱりとさせるために頼んだ紅茶なのに、甘さが控えめで丁度よい濃度で抽出された味がレモンで支配された口の中を洗い流す。
 こんなにも丁寧に抽出された紅茶を飲んだのは初めてだと感銘を受けたテア。これは、プリンも心してかかるべきでは? と喉を鳴らし、スプーンで掬いとる。
 ぷるんぷるんとスプーンの中で揺れるプリンを眺め、いざ、一口。
「……~~~っ!」
 口の中に広がった牛乳と卵と砂糖のマリアージュ。舌触りがなめらかで、舌の上に乗せた途端にスッと消えていく。かと思えば舌の上にはサラッとした甘さしか残らず、むしろ次のプリンを食べたいという気持ちを促進させていた。
 そうして底にたどり着けば、ほろ苦いカラメル。とろりとプリンの中に溢れると、先程まではサラッとしていた甘さがギュッと濃縮されて、テアの口の中をがっつり掴んで離さなかった。

「ごちそうさまでした。……ここは、名店としてワタシの記録に残しておくべきだと判断しました」
 人造種族の少女テアの頭脳が、この店を登録する。
 『小さな幸せを頂けた場所』。買い物以外でもいつでも来ることが出来るように、丁寧にマップとお店の名前を記憶して。
 大きな荷物を両手いっぱいに抱えたテアは、帰路へと付いた。

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