PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

パン屋の日常

関連キャラクター:零・K・メルヴィル

厚切りパン講座~老麺編~
 海洋某所の港町。今日も屋台『羽印』は大盛況で、パンの在庫もいくつか切れはじめた頃の出来事だった。
(そろそろ店じまいにすっか。このままだとフランスパンだけになっちまいそうだ)
 休業中の札を下げ、さっそく片付けに取り掛かろうと屋台に身体を向けたところで――足元をぽよぽよしていたイヌスラが、ちょろんと何処かへはずんで行ってしまう。
「おーい、どうしたんだライム」
 遊んで欲しいのだろうか? 何はともあれ、はぐれてしまっては大変だ。曲がったであろう路地の方を覗き込み…絶句した。

 人が行き倒れている。それも思いきり見知った事のある姿だ。黒スーツの一見ガラの悪そうな日本刀持ちの男――その名を、厚切りのジョー!

「もしかして、この人を助けてやりたかったのか?」
 ジョーの上をぽすぽす跳ねるイヌスラの意思をくみ取り、零はさっそくジョーを助け起こす事にした。立ち上がらせるとぐるぐる響く腹の虫。
「…あー」
 食パンじゃなくても許してくれっかなぁ、と厚切りのフランスパンを口元に近づけると、ジョーは唐突に大口を開けてガブリと一口。そうしてカッ! と目を見開く。
「青年! 今日のテーマは…老麺法だ!!」
「ろ、老麺法! …っていうか、何で行き倒れてたか説明はないのか!?」
「よく食パンを買い忘れて行き倒れている。定常通りだ!」
「それはそれで心配なんだけどな!?」

 説明しよう、老麺法とは!
 発酵した古い生地を新しい生地に加える事で、風味豊かなパンを作り出す製法であるッ!

「酸味と甘みの2つを感じられる独特の風味をパンに与え、味の奥行きを出す事が出来るのだ!」
「それは魅力的な作り方だけど…あんまり聞かないし、デメリットもあるんじゃないか?」
「うむ、よい着眼点だ青年!」

 ジョーは目をギラつかせ、「こんな事もあろうかと!」とばかりに懐からクーラーボックスを出す。中に入っているのはひんやりと低温で寝かせた古い生地――老麺だ。

「老麺法の主役となる老麺は、温度管理が難しい。適切に保存しなければ、酸っぱくなったりベタついたりするのだ!」
「なるほど、管理が難しいって訳か…というか食べられるパンは持ってないのにパンの種だけ持ってたのか…」
「青年にこの老麺を託そう。一食の礼だ!」
「えっ、いいのか?」

 老麺法は中華まんや菓子パンなどのもっちりしたパンだけでなく、フランスパンでも活用できると聞きかじった事がある。
「それなら…ちょっと普段と違うフランスパン、作ってみっか!」
執筆:芳董

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