PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

パン屋の日常

関連キャラクター:零・K・メルヴィル

たくさんの味を楽しみたいから

 バターの柔らかな香りは、ふわりと風に乗って遠くまで届く。
「アラ」
 焼き立てのパンの香りが優しく漂って、ジルーシャ・グレイ(p3p002246)が顔を上げた。何故なら、この辺りにパン屋はない。だとすれば――
「『羽印』が来ているのね」
 羽印――零・K・メルヴィル(p3p000277)が営む屋台営業の移動式パン屋である。
 ジルーシャが今日此処に居るのは所用帰りの偶然で、きっと零にとっても今日は『いつもと違う所へ行ってみようかな』な気まぐれの日なのだろう。寄っていきましょうと即決して、ジルーシャは香りを辿るように爪先を向けた。
「おかあさん、パンいいにおいだね」
「お家に帰ってから食べましょうね」
「わたしもうまちきれないよ」
 子どもの手を引く親娘とすれ違う。母親が抱えた紙袋からは大きなフランスパンが覗いており、切り分けて夜の食卓で家族で囲むのかもしれない。
(おやつにでも食べちゃいそうね)
 すれ違いざまに笑みを浮かべながら、自分は何を買おうかと考える。零のフランスパンは長さも硬さも選べるのも魅力的だし、他のパンだって美味しい。けれども食べきれないくらいに買う訳にもいかないのが悩ましかった。
「あれ、ジルーシャだ」
「こんにちは、雨泽。アンタもパンの香りに誘われて?」
 パンへと思いを馳せながら歩いていれば、いつの間にか屋台前。ちょうどばったり行きあった友人に目を丸くすれば、店主たる零も「知り合いか?」と尋ねてくる。
「ええそうなの、彼はローレットの情報屋よ」
「ジルーシャは店主さんと知り合い? 初めまして、劉・雨泽だよ」
「零・K・メルヴィル。俺もローレットの冒険者だ」
 互いによろしくねを交わし合うふたりを見て、ジルーシャは微笑ましげに笑った。
「さておふたりさん。何にする?」
「アタシはまだ迷っているわ。どれも美味しそうだもの」
「僕は……うーん。零のおすすめは?」
「俺のおすすめはフランスパンだな。どれも美味いよ」
「ふらんすぱん……って硬いやつだよね? うーん……」
「雨泽、零のフランスパンは硬さも選べるのよ」
「へえ」
「雨泽は硬いのは苦手か?」
「豊穣育ちだから、麵麭(パン)自体にあまり馴染みがなくて」
 なるほどなと頷いた零は、それならと柔らかめのフランスパンを用意してやる。
「豊穣なら明太子が口に合うかな」
 羽印マートで扱っている明太マヨも勧めて、これを塗って焼くと美味いと教えた。
「いいね。それじゃあそれと、メロンパンとツナマヨロールと、それから」
「ねえ雨泽。これから時間があるのなら、アタシとパンパーティをしない? 全種類買って、わけっこして食べるの。そうすれば零のお店のお気に入りも見つかるんじゃない?」
「ジルーシャ、君ってば天才? という訳で、零」
「ここからここまで、全部くださいな♪」
 明るく弾む声とふたつの笑顔。零も楽しげに毎度ありと笑って、パンたちを紙袋へと詰めた。
 さて、彼等は何のパンを気に入るのだろうか。次回の来店が楽しみである。
執筆:壱花

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