幕間
貴石を辿る
貴石を辿る
関連キャラクター:シキ・ナイトアッシュ
- « first
- ‹ prev
- 1
- next ›
- last »
- 秘められた貴石
- 出会う人たちからはよく、シキの瞳は宝石のようだと言われる。特に命を懸けた状況においては、何よりも美しいのだと。
それもそのはずで、故郷では貴石の民と称される一族は皆宝石の瞳を持って生まれるのだ。それ故に乱獲や人攫いに遭いやすいのだけれど。
シキも例外ではなく、彼女はアクアマリンの瞳を持って生まれた。
体のあちらこちらに傷を負い、シキは痛みに苛まれながらも不自由な体を引きずり、どうにかして鏡に自分の全身を映し出していた。
端的に言えば重傷状態の彼女は、先の依頼で必死に戦った。
だから。
「こればかりは……仕方ないさ、ね」
そっと脇腹に手を伸ばして、感情の伺えぬ声で彼女は呟いた。手からはみ出た箇所には、海をたたえた宝石があった。
そう、彼女の瞳と同じ宝石アクアマリンだ。
貴石病。
そう呼ばれる病があった。
貴石の民にのみ発症し、皮膚の一部が次第に宝石と化す。
「ああ、儘ならないものだねぇ」
戦いに赴く前それは手で隠せたはずだが、今や覆い隠すことが出来ない。
――病の進行。
その文字が頭をよぎり、シキは重い体を引きずって寝台の上に横になった。
負った傷がじくじく痛み小さく呻き声を漏らした。
貴石病は、シキが戦えば戦うほど――否、正確には命をかけた瞬間劇的に進行する。
「私はまだ大丈夫さ」
やがて死に至る病。その最期は全身を宝石に覆われてしまうというものだ。
シキの場合冬に発症し、ここまで進行してしまった。
例えば。
武器を捨て戦いから身を遠ざければ、進行は緩やかになるかもしれない。きっとローレットも友人たちも理解してくれるだろう。けれどシキは誰にもそのことを話してはいない。
そっと脇腹へ手を伸ばす。
今はまだ大丈夫だが、これが拡大していけば遠からず支障が出るはずだ。
――自分は後どれくらい自由でいられるだろうか。
シキたち一族は宝石に愛されている。
故に瞳に宝石を持って生まれ落ち、驚異的な身体能力を与えられる。
その代償として短命であるとしても。
「それでも私は」 - 執筆:いつき
- 㷀㷀
- アクアマリンの原石は、大抵が緑がかっているから研磨する時に熱を加えるのだと聴いた事がある。そして純粋な青に仕上げるのよ、と。
不純物を何も含まず、何処までも澄み切った透明で美しい空色の清らかで何時も笑いさざめいている筈の双眸が、今は濁っていた。
『嗚呼、嗚呼。あなたの様な美しいアクアマリンがあれば、此の子の病気も治るかも知れませんのに』
依頼で立ち寄った村で出逢った貧しい母子。
少年は生まれつき眼病を患い、実の母の貌をも識らないのだと云う。
軀も弱い我が子に少しでも良いものを食べさせてあげたいと春を売れど、何とか食い繋ぎ、薬代を捻出するのがやっとの事。其処に付け込んだ下卑た村の男に乱暴に抱かれ、そうして吐き捨てられた端金にだって『有難う御座います』と頭を下げる日々。
『お医者様が言ってましたの。石を浸したお水で眼を濯ぐと忽ち良くなるんですって』
ゾッとした。女の心底羨ましそうな、其の眼差しに。
今にも手が伸びて来て瞳を抉らり取られるのではないかという恐怖に苛まれ、シキは直様荷を纏め村を飛び出した。
・
・
・
じくり、胸が痛む。息が上がって、貴石化した脇腹がひり付く。
だって私は識っているのだ。女の殺意が誰に向かっていたか。
アクアマリンは『昔の戀人の愛を取り戻す』石でもあるんだもの。 - 執筆:しらね葵
- « first
- ‹ prev
- 1
- next ›
- last »