PandoraPartyProject

幕間

混沌で何か撃ってみた

関連キャラクター:マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ

ロビン・フッドは逃さない
 夜の森にマグタレーナはいた。運が悪い事に霧が立ち込め周囲の視界は酷く悪い。
 それでも彼女は落ち着いた様子で弓を手に瞳を閉じていた。

 そんな彼女を見つめる者達がいた。
 最近この地を騒がせる賊でありマグタレーナの標的でもある。彼らは闇の中でも目立つ『秘密の目印』を利用し散々悪事を働いてきたのだ。地の利も数も彼らが上回っている。彼女を捕らえてその装備を売ればイイ商売になる。そう踏んだ賊達はさっと夜の闇に溶け込んだのだ。

 視界に頼ることはできず、マグタレーナは独り。多勢に無勢、おまけに地の利はない。
 そう普通ならば。
「後方、木の上」
 弓を引き絞り、一言呟いて放たれた矢が風を切る。一瞬遅れ、その方向からどさりと何かが落ちる音と痛ぇという梅きが聴こえた。
 残る二人が「まぐれか?」「嘘だろ」と零した言葉を彼女の耳は捉えていた。
「見つけました」
 すぐさま一人に矢を放つ。
 残るは一人。
 矢を番え狙いをつけて神経を研ぎ澄ます。
 視界なんて関係なかった。
 僅かな音さえあれば、マグタレーナはその反響から対象の位置を見つける事が出来る。
 だから。
 彼女が放った矢から逃れられる者など誰もいないのだ。
執筆:いつき
きれいな、ゆびさき
 りいん、りいん。鈴のような声の虫が嫋々と笑う夜。
 弓懸を思わせる黒絹の手袋をはめた女が、美しい弓をなぞり上げる。
 月明かりがぼうと落ちて、薄ら塗り込めた丹いグロスが、彼女のぞっとするほど白い肌を映えさせる。
 ──討つは不死者。
 ──撃つは銀の鏃。
 刹那。墓石を押し上げ崩した亡者が、声にならぬ嘆きを響かせた。
 強大な負の情念と死臭が辺りにむんと立ち込め、死肉を啄む鴉がそれに中てられて狂ったように羽を掻き毟った。

 それを聞き及んだあと、ほう、と小さな吐息を最後に、もう彼女は根息を納める。
 呻く亡者が呪詛を吐き散らし、足を踏み出すその瞬間。
 震える空気の音を、枯れた枝を踏むその音を、彼女はその一切を聞き逃さない。
 長き時を生きた彼女のゆびさき。目は開かずとも、一切の迷いはなかった。
 ──流星を思わせる軌道を描いて、ひゅうんと風を切った一射が、ただ無情に魔を撃ち滅ぼした。

 かつて死を超越した者と添い遂げる覚悟を決めた彼女が──かつて不死を誇った残骸を見下ろしたあと。
 ただ、そのきれいなゆびさきが、溝壑を填む亡者の目蓋をするり、と瞑らせた。
 
執筆:りばくる
射止めたものは
「わぁっ! すごいや!」
 少年はサーカスの芸でも見たとでも言わんばかりにマグタレーナを見つめる。
 この日、とある孤児院の子どもたちとともに、彼女はバードウォッチングとちょっとした狩りを兼ねた依頼で森へ訪れていた。
 放たれた矢がヒュッと風を切り裂く音を立て、鹿や野兎の心臓を的確に捉える。
 そこそこ大きな獲物とはいえ、動いている的を一撃で仕留めるのは至難の業ということは、幼い彼らも理解しているが故に歓声が上がる。
 そんな彼らに、目を閉じたままマグタレーナが微笑んだ、その時。

 「あのね!」

 先の少年が、マグタレーナに呼び掛ける。その白い肌は、少し赤らんでいた。
「ボク、お姉さんみたいにカッコよくて綺麗な人と結婚したい!」
 どうやら幼き少年の一目惚れ、ということらしい。
 それ動じることなく、彼女は慈しみ深い笑みを湛えて少年の前に屈み、その頬に手を添えた。

「そのようなことは、貴方がもっと大きくなって、大切な人ができたら伝えてあげるのです。それに」

 ──わたくしは既婚者、なんなら新婚ですのよ?
 だって彼女も、亡き夫に心を射止められたのだから。
執筆:水野弥生

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