PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

老女の嗜み

関連キャラクター:マダム・ザマス

保護者(?)
「最近うちの近所に住んでる子が他の子たちにいじめられてるザマス」
「あらあら……」
「まぁいじめられる側にも原因あるって聞くけど」
 憤慨するマダム・ザマスと、子ども同士とはいえ心配ねぇと心配そうに笑う馬場さん、そしてまた余計なことに首を突っ込みそうな気配がして若干溜息をつきそうになる矢賀さんのいつもの3人衆の井戸端会議が、今日も延々と繰り広げられている。
 事のあらましはこうだ。
 近所に住んでいる7歳の男の子(マダムはたろうちゃんと呼んでいる)が、同じ町に住んでいる年が上の子供たち2~3人に囲まれていじめられているというのである。
「いくらたろうちゃんが鈍間で鈍臭くてお馬鹿でも、やっていいことと悪いことがあるザマス」
「いやいや、なんだかんだでアンタもちゃっかりディスってるじゃない、そのたろうちゃんのこと」
「まぁまぁ、矢賀さんそう怒らないの。うふふ」
「怒ってないのよツッコミどころなだけなのよ」
 そうやってワイワイガヤガヤしている最中、少し離れたところからまだ幼い少年たちの声が聞こえてくる。

 ーーおい、たろう、サッカーしようぜ! おまえ……な!
 遠く離れているからか、一部の声が聞こえない。

「やっぱりあれはいじめられているザマス。もう少しよく聞いてみるでザマス」
「たかが子ども同士のやり取りでしょうが……あーあーあー、こりゃ聞いちゃいないねぇ」
 矢賀さんが止めるのを聞かず、マダムは子供たちの会話に耳を澄ませる。
 聞こえてこない一部の声が気になるのは、常に隣人の話が気になるおば様には大変気になるもの。それは子供の他愛のないじゃれ合いでも同じことらしい。……最もいじめかもしれないというのも否定できないのだが。

 --たろう! おまえあれ買って来いよぉ? ……も一緒な!

「あらあら、何を買って来いっていうのかしら、そういう本……? ふふふ」
「多分お菓子かなんかだろ何ちょっと顔赤らめてんだよそんなもんそもそも店員が買わせないわ」
 何を買ってくるのかわからないとはいえ「そういう本」は子供は買いません。この世界の子供はいたって健全なはず。知らんけど。

 --おい、たろうが泣いたぞ!
 --やっべぇ、おい! ……しろよ!

「ん? こりゃあ、本当にいじめかもしれないねぇ」
 泣いたという言葉と、他の子どもたちがあせる声に常識人である矢賀さんは流石に焦ったらしい。
 マダムたち3人は互いに目を合わせると、あわてて子供たちの声がするほうへ駆け寄っていく。
「あなたたち、何をしているザマスか?! 弱い者いじめなど、男児としてあるまじきザマス!」
 騒ぐことどもたちの輪へ、マダムから発せられる一喝。
 しかし、子どもたちはそんなマダムに食って掛かってきた。
「いじめてねーよ! たろうはころんだから泣いただけだよ」
「あらあら、転んじゃったのね、怪我はないかしら」
 馬場さんがたろうと思しき少年の方へ向かうと、膝小僧をすりむいて泣いていた。
 その少し向こうから、別の少年が傷口を洗い流そうと公園の蛇口から水筒に水を汲んできていた。
「……じゃあ、さっきの買って来いってのは何ザマスか」
「そりゃあれだよ、お菓子だよ! たろうは年下だから俺たちの小遣いでおごってやるから好きなの買って来いっていっただけだよ」
 ホントかよ、と矢賀さんがふと視線を横に外すと、袋の中にちょっとした駄菓子がたくさん入っていた。
「これ、ぜんぶたろうくんが選んだのかい?」
「そうだよ! 全部たろうのすきなお菓子だよ!」
 べーっ、と不機嫌そうに舌を出す少年の横で、たろうはすすり泣きながら矢賀さんに向かって頷いた。
「どうやら、早とちりだったようだね。ほらマダム、いくy……」
「ま だ ザ マ ス !!」
「まだあるんかい」
 明らかにマダムたちの早とちりであることは矢賀さんと馬場さんはよくわかっているようだが、最後のダメ押しとしてマダムは大声で待ったをかけた。
「なら、サッカーの件はどう説明するんザマス? どのみち『お前ボールな!』とか、なんなら『お前スパイクな!』とか言ってるんじゃないザマスか」
「あらあら過激ねぇ」
「過激なんて騒ぎじゃないしもはや傷害事件なんだわぁ」
 はぁ……と、説明役のやんちゃな少年は大きくため息を吐いた。

「お前フォワードなって言ったんだよ! 折角遊ぶんだからボールだって触りてぇだろ?!」

 ですよねー、という顔の矢賀さんと馬場さん、そして酸素が切れた魚のように口をパクパクとさせているマダム。
 ぽん、と矢賀さんが肩に手を置いた。
「……っていうことみたいだから、帰りますよ、マダム」
「マダムも間違えることがあるのねぇ。うふふ」

 矢賀さんと馬場さんの2人に連行される、単に早とちりをしていただけのマダム。
 待って、とそんな3人にたろうは声をかけた。
「おばちゃんたち、心配かけてごめんなさい……でも、ボクお兄ちゃんたちと一緒に遊ぶの楽しいよ! だから、心配しないで!」
 屈託のない、純粋無垢な満面の笑み。
 ひざの痛みが引いた小さな少年は、少し大きなお兄さんたち元気いっぱい公園を駆け回るのだった。
執筆:水野弥生

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