PandoraPartyProject

幕間

老女の嗜み

関連キャラクター:マダム・ザマス

マダム・ザマスのホストクラブ大作戦
「ワタクシ、ホストクラブを経営してみようと思うんザマスの」
「あらあら」
「は?」
 マダム・ザマスの一言に、ギフトで召喚されていた馬場さんと矢賀さんが急に何を言い出すのかといった反応をする。
「ホストクラブってあれよねえ。イケてるメンズがいっぱいいてチヤホヤされるとかいう」
 馬場さんは頬に片手を当てて宙に視線を向ける。
「そう! この世界のイケメンを集めてクラブを立ち上げ、シャンパンタワーと甘いトークで客をもてなし、オーナーであるワタクシにマネーがガッポガッポ入る! これでごザァマスわ!」
「はぁ……」
 熱弁を振るうマダムに、矢賀さんは気の抜けた返事をする。
「そうと決まったら早速人を集めるザマスわよ!」
 マダムはそう宣言すると、チラシを作るべくドレスの裾を持ち上げてドドドと走っていってしまった。
「カネコさんは行動力があってすごいわよねえ。尊敬しちゃう」
「どうせろくなことにならない気がするけど……」
 残された馬場さんと矢賀さんはマダムを見送りながらそんな会話をしていたという。



 かくして、求人のチラシをばらまいたマダムたち三人のもとにホスト志望の人々が集まった。マダムたちは実技試験や面接により、彼らの適性を見抜いていく。
「うーん、やっぱり幻想種は美形が多いから押さえておきたいわね。女性に対する扱いが上手い子も多いわあ」
「私は獣種もいいと思うわあ。もふもふに癒やされたい女の子も多いじゃない? ワイルドで素敵だと思うの、私」
「どうせ女の子にお金を落とさせるならホストの質は重視したいザマス。『このホストクラブに何度でも通いたい』『このホストになら金を払っても惜しくない』と思わせるような上質なサービスを……」
「カネコさんってこういうとこ真面目よね」
 マダム、馬場さん、矢賀さんは履歴書とにらめっこしている。
 ふと、コンコン、とドアをノックする音がした。最後の志望者のようである。
「どうぞ」
「失礼します」
 ドアを開けて入ってきたのは鉄騎種の青年であった。顔の半分がメッキが剥がれたように鋼鉄の素地が顕になっている。お世辞にも見た目がいいとは言えなかった。
「あなたもホスト志望の方?」
「いえ、僕は清掃や厨房などの裏方につきたいのですが」
 それはそうだろうな、と矢賀さんが失礼ながら思ってしまった、その時。
「合格ザマス」
「え?」
「え?」
 マダムの突然の合格判定に、矢賀さんと青年が同時に声を上げる。
「あなた、今日からホストとして雇うザマス。よろしくて?」
「ど、どうしてですか?」
 青年はわけがわからないというように疑問を呈する。
「実技試験の前に控室で待機していたあなた方志望者をこっそり観察していたザマス。他の志望者は気付いていなかったようザマスけれど、あなたは率先して皆様にお茶を淹れていらしたザマスね」
 確かに、控室には「おかわり自由」とされたお茶のセットがあった。最初は各々で勝手に飲んでいたが、そのうち青年が全員の分をまとめて配っていたのだ。
「ホストとは、言葉の通り接待し、客をもてなす役割があるザマス。しかしホスト志望の方々は女性のもてなしは完璧でも男性にはそっけない方がほとんど。男性にも別け隔てなく接待したあなたにはホストの素質があるんザマスの」
「で、でも、僕は顔も良くないし話も苦手で……」
「ホストに重要なのは顔だけではごザァマせんわ! 必要なのはお客様を楽しませよう、快適な時間を過ごしてもらおうというその心遣い! 話術なんてあとからついてくるものでごザァマスわ! なんならワタクシが手取り足取り教えて差し上げましてよ!」
 マダム・ザマスの熱い説得により、結局青年はホストとして採用される運びとなった。



「さて、ホスト候補も揃ったところで、貸店舗を改装するザマスよ~! 忙しくなるザマス!」
「そういえば、ふと思ったんだけど」
 張り切るマダムに、矢賀さんがある質問を投げかける。
「ホストは揃えた、お店も用意した。肝心のお酒はあるの? あれ結構な値段するものが多い上に大量に用意しなきゃならないじゃない。シャンパンタワーを作るならなおさら」
「……」
 矢賀さんの言葉に、マダムはフリーズする。
「考えてなかったのね!?」
「女性客から貢いでもらうお金で買うつもりだったザマス」
「だから、そもそもお酒がないと貢ぐも何もないでしょうが!」
「あらあら、これは借金するしかないのかしら?」
「無理ザマス。お店を借りるのでもうお金も借りてるザマス」
 馬場さんの呑気な口調に、マダムは頭を抱える。
「ど、どうするの、ホストの子たちのお給料とか……」
「ちょっと待ってもらうしかないザマスね」
「初任給が未払いになるとか聞いたことないわよ」
「あらあらまあまあ……」
 マダムたちが顔を寄せ合って相談していると、
「すみません、マダム・ザマス様。借金返済計画についてお話が」
 マダムに融資した金融マンがにこやかに訪れる。
「…………」
「ちょっと、カネコさん? どうするのこれ……」
「…………フッ。ワタクシ、策がありましてよ」
「どんな?」
「三十六計逃げるに如かずザマス!」
 そうして、マダムたち三人組は老女とは思えないスピードで脱兎のごとくトンズラするのであった。
「もうホストクラブはこりごりザマス~!」
保護者(?)
「最近うちの近所に住んでる子が他の子たちにいじめられてるザマス」
「あらあら……」
「まぁいじめられる側にも原因あるって聞くけど」
 憤慨するマダム・ザマスと、子ども同士とはいえ心配ねぇと心配そうに笑う馬場さん、そしてまた余計なことに首を突っ込みそうな気配がして若干溜息をつきそうになる矢賀さんのいつもの3人衆の井戸端会議が、今日も延々と繰り広げられている。
 事のあらましはこうだ。
 近所に住んでいる7歳の男の子(マダムはたろうちゃんと呼んでいる)が、同じ町に住んでいる年が上の子供たち2~3人に囲まれていじめられているというのである。
「いくらたろうちゃんが鈍間で鈍臭くてお馬鹿でも、やっていいことと悪いことがあるザマス」
「いやいや、なんだかんだでアンタもちゃっかりディスってるじゃない、そのたろうちゃんのこと」
「まぁまぁ、矢賀さんそう怒らないの。うふふ」
「怒ってないのよツッコミどころなだけなのよ」
 そうやってワイワイガヤガヤしている最中、少し離れたところからまだ幼い少年たちの声が聞こえてくる。

 ーーおい、たろう、サッカーしようぜ! おまえ……な!
 遠く離れているからか、一部の声が聞こえない。

「やっぱりあれはいじめられているザマス。もう少しよく聞いてみるでザマス」
「たかが子ども同士のやり取りでしょうが……あーあーあー、こりゃ聞いちゃいないねぇ」
 矢賀さんが止めるのを聞かず、マダムは子供たちの会話に耳を澄ませる。
 聞こえてこない一部の声が気になるのは、常に隣人の話が気になるおば様には大変気になるもの。それは子供の他愛のないじゃれ合いでも同じことらしい。……最もいじめかもしれないというのも否定できないのだが。

 --たろう! おまえあれ買って来いよぉ? ……も一緒な!

「あらあら、何を買って来いっていうのかしら、そういう本……? ふふふ」
「多分お菓子かなんかだろ何ちょっと顔赤らめてんだよそんなもんそもそも店員が買わせないわ」
 何を買ってくるのかわからないとはいえ「そういう本」は子供は買いません。この世界の子供はいたって健全なはず。知らんけど。

 --おい、たろうが泣いたぞ!
 --やっべぇ、おい! ……しろよ!

「ん? こりゃあ、本当にいじめかもしれないねぇ」
 泣いたという言葉と、他の子どもたちがあせる声に常識人である矢賀さんは流石に焦ったらしい。
 マダムたち3人は互いに目を合わせると、あわてて子供たちの声がするほうへ駆け寄っていく。
「あなたたち、何をしているザマスか?! 弱い者いじめなど、男児としてあるまじきザマス!」
 騒ぐことどもたちの輪へ、マダムから発せられる一喝。
 しかし、子どもたちはそんなマダムに食って掛かってきた。
「いじめてねーよ! たろうはころんだから泣いただけだよ」
「あらあら、転んじゃったのね、怪我はないかしら」
 馬場さんがたろうと思しき少年の方へ向かうと、膝小僧をすりむいて泣いていた。
 その少し向こうから、別の少年が傷口を洗い流そうと公園の蛇口から水筒に水を汲んできていた。
「……じゃあ、さっきの買って来いってのは何ザマスか」
「そりゃあれだよ、お菓子だよ! たろうは年下だから俺たちの小遣いでおごってやるから好きなの買って来いっていっただけだよ」
 ホントかよ、と矢賀さんがふと視線を横に外すと、袋の中にちょっとした駄菓子がたくさん入っていた。
「これ、ぜんぶたろうくんが選んだのかい?」
「そうだよ! 全部たろうのすきなお菓子だよ!」
 べーっ、と不機嫌そうに舌を出す少年の横で、たろうはすすり泣きながら矢賀さんに向かって頷いた。
「どうやら、早とちりだったようだね。ほらマダム、いくy……」
「ま だ ザ マ ス !!」
「まだあるんかい」
 明らかにマダムたちの早とちりであることは矢賀さんと馬場さんはよくわかっているようだが、最後のダメ押しとしてマダムは大声で待ったをかけた。
「なら、サッカーの件はどう説明するんザマス? どのみち『お前ボールな!』とか、なんなら『お前スパイクな!』とか言ってるんじゃないザマスか」
「あらあら過激ねぇ」
「過激なんて騒ぎじゃないしもはや傷害事件なんだわぁ」
 はぁ……と、説明役のやんちゃな少年は大きくため息を吐いた。

「お前フォワードなって言ったんだよ! 折角遊ぶんだからボールだって触りてぇだろ?!」

 ですよねー、という顔の矢賀さんと馬場さん、そして酸素が切れた魚のように口をパクパクとさせているマダム。
 ぽん、と矢賀さんが肩に手を置いた。
「……っていうことみたいだから、帰りますよ、マダム」
「マダムも間違えることがあるのねぇ。うふふ」

 矢賀さんと馬場さんの2人に連行される、単に早とちりをしていただけのマダム。
 待って、とそんな3人にたろうは声をかけた。
「おばちゃんたち、心配かけてごめんなさい……でも、ボクお兄ちゃんたちと一緒に遊ぶの楽しいよ! だから、心配しないで!」
 屈託のない、純粋無垢な満面の笑み。
 ひざの痛みが引いた小さな少年は、少し大きなお兄さんたち元気いっぱい公園を駆け回るのだった。
執筆:水野弥生

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