PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

活き餌侍と磯姫騎士

関連キャラクター:リディア・T・レオンハート

If I was you
●疑似再戦、並びにその記録
 六月某日。天候は雨。両者傘を持たず再会。
 男、武具を持たず。丸腰での登場。

「……来てくれたんですね」
「ああ。少なくとも俺は、この戦いを再戦だとは認識していない」
「どうして? 私、あんなに一生懸命『招待状』を書いたのに!」
「それを言うなら果たし状だろうが……まぁ、その理由はもう自分がよくわかってるんじゃないか?」
 刀を持たずに現れた幻介に、リディアは頬を膨らませて『見せた』。
 幻介が問えば――不安定だった心からは、ぼろぼろと本音がこぼれだす。
「……私のこと、からかってるんですか」
「いいや」
「それじゃあ、私が本気じゃないとでも?」
「いいや」
「馬鹿にしてる?」
「違う」
「刀なんてなくても勝てるって?」
「違うさ」
「私のこと対等に見てないんでしょう」
「リディア」
「弱いって、見下しているんでしょう」
「リディア」
「そうやって、また、私を――」
「リディア!!!」

 ――今まで培ってきた技術を捨てて勝てたことを、素直に喜べるほど。
 リディアは勝ちに貪欲でも、教えてくれた人に対して失礼を働けるわけでもなかった。
 不意をつくような。命を捨ててでも命を喰らうような。そんな戦い方を、リディアが望んでしていた訳ではないことに、幻介は気付いていたのだ。
 だからこそ、今日は戦うつもりがないことを示すために刀を置いてきた。
 リディアが武器のない相手に斬りかかるほど容赦のない人間ではないことも。
 リディアが今まで拘ってきた戦い方を容易に捨てられるほど切り替えの早い人間ではないことも。
 そして。今自分が迷いの渦中にあることを隠せるほど器用な人間ではないことも。
 全部全部、知っていたから。
 もし刀を持っていけば、なにか理由をつけて戦うことを強要されただろう。そして、その過程を踏めば。もう二度とリディアは己がこれまで極めんとしてきた戦い方に戻ることはできなくなる。

 幻介は厳しい。けれど。

「甘いといっているんだ」
「なんだ、もう終わりか」
「よもや、卑怯とは言うまいな?」

 今まで。

「いや、喚きたくば喚けば良い。その頃には、そっ首跳ね終えているだろうが」
「お主の戦いは素直過ぎる」
「……そのような戦い方では、いつか命を落とすぞ……?」

 ずっと。

「……拙者に殺されそうになっておいてか」
「おいリディア!! もうやめろ、風邪引くだろうが!!」
「……そうか。リディアは、そうするんだな」

 ただ、なんの理由もなしに。
 いじめるような真似も。
 心を折るような真似も。
 したことが、なかったのだ。

 からかっていたこれまでもあったし、10以上も離れた年の差を気にし、優しさでそれをあまり指摘することがなかったのかもしれない。
 幻介はいつだって素直じゃない。言葉も、剣筋も。
 だからこそ、戦っている間だけは、本音が見えるような気がして、嬉しかったのだ。
 もっと強くなれば、頼ってもらえるんじゃないかと思って。
 ただからかうだけじゃなくて、ちゃんと友達になれるんじゃないかって。信じてくれるんじゃないかって。
 そう、思っていたんだ。
 ……そう、思っていたんだと、思う。
 もう戻ることはない記憶。投げやりにしてしまったこれまでの自分の努力。

(――ああ、)

(私ってば、どうして大切なことを忘れていたんだろう)

 一度失ったものはもう戻らない。
 それが心であれ、熱意であれ、なんであれ。
 もうあの秋の日のように。素直にまっすぐに、幻介の背中を追いかけることは――リディアには、できなくなっていたのだから。

 男、退場。
 女、涙を流す。

●誰かの日記

 If I was you,
(もし、私が……幻介さん、あなただったのなら、)

 could I be as strong as you?
(私は貴方と同じように、強くなれていたのでしょうか?)
執筆:

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