幕間
ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。
活き餌侍と磯姫騎士
活き餌侍と磯姫騎士
関連キャラクター:リディア・T・レオンハート
- 曇り、折れた刃
- ●
ぽつ、ぽつ、と雨が降る。
滴る雫は汗か、それとも。
伝う雫は何を見る。
握った掌は赤くて。
(……もっと、もっと、強くならなくちゃいけないのに)
どうして己はこんなにも弱いのだろう。
あの日、活き餌侍と馬鹿にしていた男の真価を知った。結局のところ彼は、『遊ばれていていてくれた』のであろう。
ならば私は。この刃は。どうして。
――――弱い。
「――ッ!!」
キィン、と剣が飛んでいく音がする。じんじんと残った反動。てのひらが、いたい。
あの日躊躇いなく死を突き付けた男の影が脳裏をよぎる。
死とは即ち敗北だ。
もう彼にも、誰にも負けないと誓ったはずなのに、クワルバルツはそれを許さない。
弱さを。無力さを。知りたくなかったはずの脆さを、教えられていく。
強くなることはとても難しいのに、どうして人間は簡単にこんなにも弱くなるのだろう。
――リディア。剣にのせるのは欲ではなくて、願いだ。
兄の言葉。
己の欲に飲まれて奮う剣はただの暴力なのだと。
己の剣は――『どう』であろうか?
(弱い。弱い。弱い弱い弱い弱い弱い弱い弱い――――――ッ、弱い!!!)
飛んでいった剣をまた広い、愚直に斬りかかる。
ずっとずっとずっと。あの日に捕らわれている。
ずっとずっとずっと。貴方が。その強さが、恨めしい。
なのに。
「おいリディア!! もうやめろ、風邪引くだろうが!!」
「やめて、離してくださいッ!! 私は強くならなきゃいけないんです――!!」
傷だらけの掌が。
酷く不器用な優しさが。
その声が。
私から離れないのは、何故だろう。
剣を取り上げられまいと剣を奮えば、幻介はされるがままに『斬られる』。
刃が、彼の頬を裂いた。
「……リディア」
「関わらないでくださいよ。……どうして、こんなことするんですか」
嫌だ。どうして。来ないでよ。土足で、無用心に、ずかずかと。彼は踏み込んでくる。リディアの心に。
それが、酷く苦しくて仕方がない。
(……私は強くならなきゃ、いけないのに)
そう呟く度に、どうしてこんなにも胸が痛むんだろう。
――あの日焼き付いた幻介の背中が、やけに霞んで、思い出せない。 - 執筆:染