幕間
ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。
■■■■の生きる日常
■■■■の生きる日常
関連キャラクター:佐藤 美咲
- 00機関。或いは、ウィンザーノットの依頼人…。
- ●ウィンザーノットは信用ならない
幻想。
とある小さな街の片隅。
廃墟の1歩手前といった風なオンボロ酒場には、ノイズ混じりの古い曲が流れていた。
店内に客は2人。
1人はバーカウンターに腰かけた身なりの良い若い男性。もう1人はカウンターからほど近いボックス席を1人で占領している凡庸な女性である。
少したるんだ身体、野暮ったい黒縁の眼鏡、目元を隠す眺めの黒髪……どこにでもいそうで、どこにもいない。否、どこにいても気づかなさそうな、いかにも“普通”な女であった。
カチャカチャとグラスを洗う音が聞こえる。
それに紛れて、スーツの男が指先で数度、カウンターを叩いた。
トン、トン。
トン、トン、トン。
トン、トン。
トン、トン、トン。
一定のリズムでデスクを鳴らす。
「トン・ツー……要件だけ、短く話すッス。あぁ、こっちは向かないように」
ぼそり、と。
ボックス席の女……佐藤 美咲が囁いた。
スーツの男は、ビクリと肩を跳ねさせる。
「あ、あんただったのか。てっきりバーテンの方だとばかり」
「要件だけ短く話すように言ったはずっスよ。無駄話がしたいなら、帰るっス。高橋室長の紹介だからわざわざ足を運んだんっスから」
そう言って美咲はグラスを持ち上げる。
カラン、と。
グラスの中で氷が揺れて、音を鳴らした。
数瞬の沈黙。
男は声を潜めて言葉を紡ぎ出す。
「依頼内容は身辺調査だ。ターゲットはこの街を納めている貴族の当主。大規模なテロを企てているって話だが……生憎と証拠がない」
「……へぇ?」
「屋敷に忍びこんで証拠を見つけ出す。或いは、当主を暗殺してくれれば早いな。むしろ俺としてはそっちの方を推奨するが」
その方が手っ取り早いからな。
そう言って、スーツの男はグラスの中身を一気に煽る。
それから、男は懐へと手を入れた。
美咲がわずかに身を傾けて、曲げた脚に力を込める。すぐにでも床を蹴って動き出せる姿勢を取った。
しかし、すぐに美咲は脱力して、はぁ、と小さな吐息を零す。
男が懐から取り出したのは1枚の紙幣。
小切手だ。
音もなく差し出されたそれを、美咲はしかし受け取らない。
「……おい。なんのつもりだ?」
「うん? あぁ……依頼はお断りするっス」
そう言って美咲は席を立つ。
支払いをテーブルに置いて、店を出て行こうとする彼女を男は「待て」と呼び止める。
「なんで依頼を断る? せめて理由を聞かせてくれ!」
焦った調子で男は言った。
その態度が既に怪しいのだが……。
「理由は色々あるけど、私、ウィンザーノットにしてる奴は信用ならないと思ってるんっスよ」
と、そう言って。
男の首元を指さした。 - 執筆:病み月