PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

おまかせ

関連キャラクター:マニエラ・マギサ・メーヴィン

銀狐怪奇ファイル。或いは、鶏小屋の惨劇…。
●ある奇怪で悍ましい事件
 空の暗いある日のことだ。
 どんよりと重い、分厚い雲が空一面を覆い隠している。今にも雨が降り出しそうだ。湿気で重たくなった尻尾を片手で梳いて、マニエラ・マギサ・メーヴィンは「はぁ」と重たい溜め息を零す。
「ふむ、ここがそうか」
 マニエラの視線の先には、小さな鶏小屋がある。
 練達、セフィロト郊外にあるマニエラの領地のとある民家の庭先だ。
 鼻腔を擽る鶏小屋独特の臭いと、それから腐った肉や血を原因とする異臭に、マニエラは形のよう鼻を袖で覆って眉を顰める。
 鶏小屋の周囲には、膨大な量の血痕と、抜け落ちた羽毛、それから“鶏だった”肉片が散らばっている。あまりにも凄惨な光景だ。
 肉片の状態を見るに、それはきっと何かに食いちぎられたのだろう。
 野生の獣か……考えられるのは猫や野犬、或いは狼や狐の類だろうか。実のところ、こういった野生の獣による家畜への被害というのは、年に何度も報告されている。場合によっては、魔物の類が事件に関わっていることもあるため、マニエラのような領地持ちは時折、今回のように現場へ足を運ぶことも多いのだ。
「飼われていたのは鶏が13羽、か。13羽の鶏を一夜のうちに喰い尽くすとは、かなり飢えていたんだろうな」
 散らばった羽毛や血の量から判断するに、13羽の鶏は1匹も残らず喰い尽くされたことは間違いないだろう。
 そして、鶏を喰い尽くした獣は、既にどこかへ逃げ去っている。
 今更、追跡することも難しい。もうじき雨が降り始めれば、足跡や血の臭いを辿ることも出来なくなるはずだ。
 だから、事件の調査はこれで終わり……。
 そうしたいところだが、マニエラは額に手を当て、本日何度めかの溜め息を零した。
 鶏小屋の金網が破られていることに気が付いたからだ。
 金網を破り、獣は小屋へと侵入した……と、それならどんなに良かったか。マニエラは『金網が内側から食い破られている』ことに気が付いた。
 そして、鶏小屋に残る破壊の痕跡は、内側から破られた金網のみ。
 つまり、鶏を食い殺した何かは『鶏小屋の中に居て、鶏を喰い尽くした後、金網を破って外に逃げた』ということになる。
「……卵があるな。孵ったばかりのように見えるが」
 鶏小屋の奥の方、血だまりの中に割れた卵が転がっている。
 まるで夜の闇のように黒い卵だ。
 卵の内に居たであろう雛の姿は見当たらない。
 件の獣が卵を割って、内の雛を食ったのか。
 否である。
 卵は内側から割られている。つまり雛は無事に孵ったということだ。
「獣に喰われたのなら良し。そうでないなら……」
 どうしたものか。
 血だまりに転がる卵の殻を凝視しながら、マニエラは途方に暮れるのだった。
執筆:病み月

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