PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

食べないでください!

関連キャラクター:ベーク・シー・ドリーム

シモン・マーサの後悔と悦び。或いは、あの日の続き…。
●毎日毎日
 シモン・マーサが海に出たのは、今から数年ほども昔のことだった。
 かつて共に過ごし、そして喧嘩別れした、1匹のたい焼きを探すためだ。
 たい焼きの屋台を改造した武装船に乗り、シモンは目的もなく海を彷徨った。
 それはまさに、妄執と呼ぶにふさわしい。
 あの日、別れたたい焼きとの再会を願えばこそ、死にそうな目に遭いながらも航海を続けることが出来たのだ。
 南海では巨大なマッコウクジラと激闘を繰り広げた。たい焼きはこいつに食われてしまったかもしれない……そう思ったシモンは、わざとクジラに食われて腹の中を探した。
 北海では巨大な牡蠣の怪物に逢った。通称UFO(unidentified flying oyster)と呼ばれるそれに追われながらも、彼は一心不乱に氷の海を突き進んだ。
 南へ、北へ……そんな過酷な毎日を送り続けて、数年ほども海を彷徨って。
 そして、ある晴れた日。
「やぁ、探したよ! 何年も何年も! 俺ぁ、ずっとお前を探し続けていたんだよ!」
 彼はついに、あの日に袂を分かったはずの、愛しいたい焼きと再会したのだ。

 鉄板の上で、巨大なたい焼きが焼けている。
 逃げ出そうと暴れるそれを押さえつけ、シモンはにこりと微笑んだ。
「おいおい、照れているのか? 俺とお前の仲じゃないか。そんなに怒らないで、またお前を焼かせてくれよ」
 甘い香りが漂っている。
 焦げ目がついたたい焼きを、シモンは慣れた手つきでひっくり返した。
「いえ、ですから。おじさんの知り合い? らしいたい焼きと僕は無関係なんですってば。僕はベーク・シー・ドリーム。たい焼き違いですよ?」
 焼かれながらもベークは言った。
 鉄板の熱程度、ベークの耐久力からすれば虫に刺された程度のダメージしか残らない。だからと言って、焼かれ続ける日々にもすっかり疲れているが。
「ベーク? お前、ベークって名乗ることにしたのか? あぁ、分かった。お前の意思を尊重しよう。俺ぁ、お前のことをベークって呼ぶよ。そうだ! この店の名前も“たい焼きベーク”に変えるってのはどうだろう?」
 シモンの目は、不気味なほどに爛々と輝いて見えた。
(あぁ、駄目ですね)
 シモンに言葉は通じない。
 彼はすっかり、おかしくなってしまったのだ。
 たい焼きを探す旅の中でそうなったのか。それとも、最初からそうだったのか。
「さぁ、それじゃあ味見といこう。って言っても、俺とお前が組んだんだから味はいいに決まっているよな」
 なんて。
 シモンがナイフを取り出したのを見た瞬間、ベークはその場で激しく跳ねた。
 振り回されるベークの尾が、シモンの顔面を殴打する。それから、シモンを打った反動でベークは海へと跳び込んだ。
執筆:病み月

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