PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

食べないでください!

関連キャラクター:ベーク・シー・ドリーム

夏の思い出。或いは、空腹はすべてを凌駕する…。
●僕と原住民の夏休み
 陽気なレゲエに、灼熱の砂浜、それから高くあがる波。
 波のざわめき、風の音。
「あのぅ? 僕はこれからどうなるんでしょうか?」
 木の棒に縄で括りつけられている鯛焼きが、そんな疑問を口にする。
 2人の男に抱えられ、ベーク・シー・ドリームは砂浜を行く。
 視線の先には、焚き火で熱された巨大な鉄板があった。
「辟シ縺」
「鬟溘≧」
「螳エ莨壹☆繧」
 ベークを運ぶ2人の男と、鉄板に獣脂を滑らす若い女が答えを返す。
 獣の皮と蔦で編んだ衣服を纏う、褐色肌の男女である。木の実の汁で体に描いた奇妙な模様には、いったいどんな意味があるのか。
 彼らが何を言っているのかは分からない。
 しかし、何となく言葉の意味は予想が出来た。
 それも当然。
 何しろ、これまでの人生で何度も繰り返して来たやり取りなのだから。
「僕は鯛焼きではないです! 食べないでくださーい!」
 夏の空に、ベークの叫びが木霊する。

 夏の嵐に巻き込まれ、ベークは海を漂った。
 数日の漂流生活の末、辿り着いたのはどこかの陽気な島である。
 白い砂浜には、古めかしい巨大なスピーカー。
 流れるレゲエのリズムに合わせ、揚々と踊る褐色肌の男たち。
 纏う衣服や使う言葉から、彼らが所謂“原住民”と呼ばれる類の人間たちだと理解した。
 誰もが痩せこけ、疲れた顔をしているように見える。
 きっと、満足な食糧を得られていないのだろう。
 となると、この踊りは「食料を乞う儀式」の一環なのではないか?
 一瞬の間にそこまでを予想し、ベークはひとつ溜め息を零した。
「……せっかく流れ着いた島ですが、すぐに脱出した方がよさそうですねぇ」
 砂浜に横たわったまま、ベークは這うようにして海へと向かう。
 と、その時だ。
 ひゅう、と強い風が吹き抜け、ベークの放つ甘い香りを男たちの方へと運んでいったのだ。
 嗅ぎ慣れぬ甘い香りに、男たちが踊りを止めた。
 くるり、と。
 男たちは一斉にベークの方へと視線を向ける。
「鬟溘>迚ゥ縺具シ」
 誰かが放ったその一言をきっかけに。
 ベークと男たちによる、ごく短時間の鬼ごっこが始まった。

 疾走の末、ついにベークは捕まった。
 空腹の限界を迎えた男たちの執念が、ベークの逃走力を上回ったのだ。
 そうしてベークは、数人がかりで抑え込まれて、木の棒に括りつけられる。
 その間に、砂浜の真ん中では焚き火が炊かれ、鉄板が熱されていた。つまり、調理の準備は整っているというわけだ。
 鉄板の横に転がっているのは岩塩か。
「……塩は合わないと思うんですよ」
 熱々の鉄板へと視線を向けて、ベークは己の運命を悟る。
 言葉は通じない。
 しかし、気持ちは伝わった。
 にこり、と鉄板を準備していた女性が笑って……岩塩を脇へと押し退けた。
執筆:病み月

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