PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

希望が浜ヒーロー奇譚

関連キャラクター:山本 雄斗

邂逅!ヒーローズVS幽鬼
●正義の在処
「これは……こんな酷い事が許される筈ないであります!」
 めくれ上がったコンクリート、折れた電柱。人助けセンサーが感知するままに駆け付けた現場で、ムサシは惨状に思わず言葉を詰まらせた。
 竜の襲撃から暫く経つが、練達は未だその傷を癒しきれていない。
 あの日の痛みは夜妖となって人々の不安をかき立て続け、それでも前向きに生きようと頑張る人々を、彼はヒーローとして支え続けてきたつもりだった。
 それは共に敵襲を警戒し、身構えている雄斗も同じ事。だからこそ目の前の光景を飲み下せずにいた。

 現れた夜妖を討伐した痕跡はある。しかしその痕は、誰が見ても明白だった――何をする術もなく一方的に、理不尽な暴力をもって祓われたのだ。
 周囲の被害は夜妖ではなく、騒ぎの中心に立つ三人の男の影。

 烏の濡れ羽で浸した様な漆黒のボディに、Ⅰ、Ⅱ、Ⅲの白いナンバリングの文字が施されたバトルスーツ。

「君達はいったい……」
『見てのり、俺達はヒーローですよ』
 Ⅱの数字が施されたスーツの男は、雄斗の言葉へさも当然とばかりに切り返す。
「こんなのヒーローのやる事じゃないよ。力の弱い夜妖相手に周囲の被害が出るまで攻撃するなんて……弱い者いじめだ」
『俺ちゃん達だってここまでする気は無かったのよ? でもさぁ、コイツが夜妖憑きだったねーちゃんを庇うから』
「……ッ!」

 Ⅲの男が足元のボロ雑巾を無造作に蹴った。――冥夜だ。瓦礫の中心で誰かを庇う様に覆い被さったまま、Ⅲに踏みつけられている。

「『無限ライダー』、大丈夫でありますかッ!?」
「……こいつら、夜妖憑きの人間から夜妖が離れても、殺そうとしやがっ、て……ぅ、ぐっあぁぁ」
 深手をおった脇腹を蹴られようと、冥夜はてこでも動かない。フフンとマスク越しに嘲笑いながらⅢは嗤う。
『当然じゃん? 夜妖憑きになっちゃうような心の弱い人間なんて、ほっときゃまた人様に迷惑をかける』
「だから僕達がいるんじゃないか! 何度だってヒーローは、困ってる人に救いの手を差し伸べ――」
『ぬるい』
 それまで沈黙していたⅠのナンバーを背負う男が口を開く。
 マスク越しに発されたその声は加工が施されているものの年若く。雄斗は歳の近しい相手にこれほどの強い殺意を向けられるものかとバイザーの奥で目を見開いた。
『悪の芽は徹底的に潰さなければならない。お前達のやり方では、決して救われない者もいる』
「な……」
『ヒョォ! Ⅰ(アイン)ちゃんがここまで饒舌なの珍しいじゃん? こりゃあすっげー怒ってるぜ。怖!』
『現場ではしゃがないでくださいⅢ(ドライ)。彼らにも俺達にも譲れない正義(モノ)がある。……時間です』
 黒き男達のスーツからアラーム音が響く。ぼろぼろの冥夜をそのままに、瓦礫の上を身軽に飛んでビルの屋上へ渡る男達。

「待つであります! 話はまだ終わっていないでありますよ!」
『いずれまた会えますよ。貴方がたがこの国で"ヒーローごっこ"を続ける限り』
『……俺達は幽鬼(ハウント)。夜妖すべてを駆逐するため編成された特殊部隊』
『ほいじゃね、ぬるいヒーローちゃん達。次はサシで殺りあおうじゃん』

 去り行く幽鬼達の姿をムサシと雄斗は追わず、妖怪憑きだった一般人と冥夜の手助けを優先した。
 ざわめき立つ心に、雄斗は唇を噛みしめる。
「殺し合いだなんて、僕達はただ……困っている人を助けたいだけなのに」

●隣り合わせ
 夢を見る時はいつも同じだ。煙に巻かれ、炎に包まれた悪夢を見る。
「お兄ちゃん、助けて!!」
「友里ぃーッ!!」
 伸ばした手はいつだって届かない。無駄だというのが理解出来ても、手を伸ばさずにはいられない。
 友里は俺のたったひとりの大切な家族で、俺の人生の全てだったから。

「……はっ!」
 ベッドから跳ね上がり、ぐっしょりと濡れた前髪をかき上げる。時計の針は午前四時。通学の準備にはまだ早い。
 Ⅰと刻まれたバングルをはめた右手でサイドテーブルを漁り、ボロボロになった兎のマスコットを手に取る。
「……友里…」
 零れ落ちた涙がフェルトのボディに染みた。形見を汚してはいけないと顔を上げ、彼――烏真 壮太(からすま そうた)はベッドから起き上がった。
 洗面所へと重い足取りで歩く。その道中、横切ったテーブルには書類が置かれていた。希望が浜学園への編入届と学生手帳。

 資料に記されていたのは、奇しくも雄斗と同じクラスだった。
執筆:芳董

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