幕間
ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。
アルトバ文具店(営業中)
アルトバ文具店(営業中)
関連キャラクター:古木・文
- 涼やかなる
- ●
「おにいさん、おにいさん」
「あ、また来てくれたんだ。元気?」
「うん!」
作業台に背伸びしてひょっこりと顔を出す少女は、まだ小学生にもなっていない近所の常連さんの一人娘。
時折ふらりと現れては、お菓子の差し入れを持たされて『お茶会しましょ!』なんて洒落たお誘いをくれるものだから、そのお言葉に甘えている。
「おにいさん、レモンケーキはすき?」
「ああ、一等ね。また貰いすぎてるような……お母さんには『もう十分です』って伝えておいて?」
「おかあさまはきっとよろこんでるから、だめだとおもう」
「そっか」
常連さんということもあって些細な身の上話なんかも少々。夏場になると腐りやすいけれど、この子はそれを防いで手早く持ってきて、お茶会の誘いをくれる。
作業は一旦中断。小さなレディを椅子へエスコートし、本日もお茶会が開催される。
「おにいさん、またあたらしいものしいれたの?」
「ああ、うん。『どう』かな?」
「……あれは、だめかも。憑いてる、かな」
「そっか、ありがとう」
また墓前に供えられていたの、なんて寂しげに笑う少女は。遠い夏の日に置き去りにした母親を忘れられずに、時々此処に通っている。
「おかあさまに、美味しかったって伝えておいて」
「だめだよ。それはちゃんと自分で、ね」
「……手紙を書けって?」
「うん」 - 執筆:染